爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「仏教語源散策」中村元編

仏教の言葉から日常語となったものは数多くありますが、それらの語源を簡単に解説すると言うことを、インド哲学・仏教学の権威であった中村元さんがおそらくお弟子さんの3人(松濤誠達、松本昭敬、上村勝彦)に執筆させたものをまとめた本です。

日常語になっている「人間」「無常」「無我」「業」「観念」「火宅」「上品・下品」など、仏教の宇宙観から来ている「三界」「金輪際」「奈落」「娑婆」、仏教に取り入れられた神々「阿修羅」「帝釈天」「閻魔」「韋駄天」、寺院に関する「長老」「和尚」「袈裟」「引導」など、普通に使われている言葉や寺院の名まで馴染み深い言葉が多くあります。

これらは中国で仏教が取り入れられた際にサンスクリット語梵語)から漢訳されたのですが、意味を捉えて訳されたものもある一方、発音を残して音訳されたものも多いようです。
例えば「人間(にんげん、じんかん)」という言葉は「ひと」そのものを呼ぶ場合と、「世間」を指す場合があり、人の原語は「ヌリ」ということばで、「世間」はヌマシヤ・ローカという言葉を写したものだそうです。
「火宅」とは今人間が生きているこの世の中を指しますが、原語では「アーディープターガーラ」という言葉で、「燃え盛った家」という意味です。まあその通りの言葉でしょう。法華経の中に世の中のことを指す比喩として用いられています。

仏教には数多くのヒンズー教の神々が取り入れられました。阿修羅はサンスクリット語のアスラをそのまま漢字に写したものですが、アスラの起源はアーリア人のインド侵入以前に遡るもので、イランに残った人々と別れる前にすでに存在しており、イランでは「アフラ」と呼ばれており、その後それは「アフラマヅダ」となりゾロアスター教の神ともなりました。
帝釈天は、原語では「シャクロー・デーヴァーナーム・インドラハ」となり、意味は神々の支配者のシャクラということですが、そのシャクラを音訳して釈となり、神々の帝王であるので帝の字をつけて帝釈天となったということです。

出世と言う言葉も仏教からきているそうです。第1の意味としては仏が衆生を救うために現れることを「出世」と言ったそうで、サンスクリットで「ウトパーダ」と言うそうです。第2の意味として世間を越えているということが出てきており、それは「ローカ・ウッタラ」という言葉を写しています。ここから世間を越えるということになり、今の意味の出世につながったようです。

サンスクリット語はインドヨーロッパ語族に属しているということで、名詞には男性・女性・中性と性があり、単数と複数も言い分けると言ったその特徴を持っています。現在でも一部に使っている人々もいるそうで、死語になったわけではないようです。