爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ウナギ 地球環境を語る魚」井田徹治著

著者は専門の研究者ではなく、共同通信社の記者として長く科学関係の報道をしてきたという方ですが、本書内容はまったく適切なものと感じました。

今年はニホンウナギ絶滅危惧種指定というニュースが大きく報道されましたが、本書の出版は2007年で、実は「ヨーロッパウナギ」がレッドリストに載せられた直後だったそうです。
ヨーロッパでも南欧を中心にウナギの食習慣は幅広くありますが、このヨーロッパでの激減もやはり日本向けの養殖のためのシラスの漁のためだったとか。中国でウナギの養殖が急激に増加したものの、すでにニホンウナギのシラスは激減して輸出が制限されるほどだったためにヨーロッパからの輸入に頼ることになったということです。

ウナギはいまだにその生態が不明な部分が多いということで、産卵地が確定しないと言う話は有名ですが、それ以前に成熟し生殖器官が発達した成魚というものが得られていないということです。シラスを捕獲して産卵地に迫ると言う研究は延々と続けられていて大西洋、太平洋ともにだいたいの位置は絞られているそうですが、そこにどうやって成魚が向かっているかはよく分かっていません。

深海と川を生活環境としているという意味では鮭も似てはいますが、鮭が川で産卵するために上ってくる、つまり成魚で上ってくるのに対し、ウナギは稚魚が上って行きます。そのため泳ぐ力も弱いので流れの影響も強く、またダムなどがあると非常に上ることが困難になるそうです。

マグロが完全養殖ができたという話は聞きますが、ウナギは困難ということはよく言われています。実際に卵からの養殖という研究は続けられていますが、餌がなにかということもよくわからず、ほとんどが卵黄からの栄養が尽きてしまうと死んでしまうとか。アブラツノザメというサメの仲間の卵を餌にしてやるとなんとか生き延びるものが出たと言うことですが、このアブラツノザメ自体が絶滅危惧種だとか。とても養殖用に使えるようなものではないようです。
2003年当時で、人工孵化から100日間生き延びた稚魚は0.0026%だとか。

本書出版当時はまだニホンウナギ絶滅危惧種指定までは行っていませんでしたが、ウナギが成熟するまでには7-8年かかるということです。シラスの激減からその程度の期間が経てばさらに減少が見られるのでしょう。
激減の理由は乱獲もありますが、河川改修による環境の悪化も大きいようです。コンクリートで固められればウナギの住処はまったくなくなります。絶滅も近いのかもしれません。

しかし、元々ウナギと言うものはそれほど庶民が頻繁に食べられるものではありませんでした。それが近年になって安価にスーパーで買えるようになった。それを不思議とも思わずに食べてきたのも間違いなく絶滅に向かっている理由だそうです。そしてそれが分かってきてもやめられない現在の状況というものはどうなんでしょうか。これまで数多くの動植物を絶滅させてきた人類の悪行が繰り返されています。