爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「パルテノン・スキャンダル」朽木ゆり子著

大英博物館にはギリシアやエジプトなどの歴史的な遺物が納められており、それの返還を求める国々との間で紛争が起きていることは知っていました。
この本はその中でも非常に優れたコレクションとして知られる、アテネパルテノン神殿の彫刻をめぐる話です。
博物館にあるということで、国家としての行為で持ち帰ったような感覚でいましたが、実はイギリスの大使であったエルギン伯爵が個人的に持ち帰ったということです。
当時、ギリシアを治めていたトルコはフランスに侵略されていたのをイギリスの助けを借りて撃退したため、対イギリス感情が良くなっていたようです。そのため、エルギン伯爵から出されたパルテノン神殿などの調査の要望を許可したのですが、この辺にも調査と破片の採取を認めただけなのに、彫刻自体を切り取られたという問題もありそうです。
また、そのためにはトルコのスルタンの認可書がなければならないのに、残されているのはどうやら当時のギリシアの代官の許可のみで、それもイタリア語に訳したものがイギリス側の手元にあるのみで、正式なものではないという指摘もあります。

エルギン伯爵としては、これらの美術品はそのまま置いておくとトルコなどの劣悪な管理能力のもとでは盗難や破壊のために失われる可能性が強いから保護するというつもりがあったようです。

ともあれ、一応合法的という形をとりながら、エルギン伯爵は彫刻を大量に持ち出しました。しかし、それは個人としての行為だったために途中で資金が乏しくなったり、船が難破したりと、大変な苦労の末にイギリスに持ち帰られました。
それも大英博物館が「買い取った」わけですが、バイロンなども略奪したという批判を浴びせるなど、当時から相当問題視はされていたようです。
しかし、博物館側は結局合法として買い取りますが、その価格はかなり低く抑えられたようです。

その後、ギリシア側は返還の要求をしていますが、大英博物館は拒絶したままです。イギリス政界も返還を認めるという勢力もありますが、一時そう明言していた労働党も、実際に政権についてみると何もしなかったということで、解決は今後も長くかかるのでしょう。