爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「物語を忘れた外国語」黒田龍之助著

著者の黒田さんはロシア語が一番堪能ということですが、他にもウクライナ語、ベラルーシ語、チェコ語等多くの外国語に通じておられます。

 

とはいえ、チェコ語は他の言葉ほどには使えないということですが、たまたまチェコの大学での講演を頼まれ、日本語科の学生向けということで多くを日本語で話すものの一部はチェコ語で話すこととしたのですが、それには少し自信が持てなかったようです。

 

そのため、少しチェコ語に慣れておくために、「チェコ語に翻訳された星新一の作品集を読んでおく」ということをしました。

 

これは、黒田さんが外国語能力を向上させるために有益と考えている方法です。

 

ところが、一般的に日本では外国語能力を向上させるためには外国語学校に通い、検定試験を受けるというやり方の方が好まれるようです。

 

特に、検定試験を受けるための問題集というものが多くの言語について販売されており、それを買って丹念に学んでいくというのが王道のようです。

ただし、そういったものに使われている教材というものは、新聞の社説や小説の抜粋といったものを寄せ集めただけのものが多いようです。

 

しかし、黒田さんは他の言語の場合でも、「物語を読む」ということが最上と考えています。

問題集の切り貼りした教材などでは、楽しくないからということです。

それくらいなら、オリジナルの物語を読んだほうが楽しい。

 

これは、言語学専門の研究者でも同様のようで、言語学者はほとんど文学を読まない。文学者は言語学を学ばない。といった傾向が強いとか。

 

しかし、検定試験漬けで会話至上主義の外国語環境というのは潤いがありません。

そこに潤いをもたらすのは物語しか無いと黒田さんは固く信じているそうです。

 

こういった意見を記した序章に続き、さまざまな言語にまつわるエッセーがつながっていきます。

物語というものを常に意識しているその文章はなかなか薫り高いと感じさせるものになっているようです。

 

物語を忘れた外国語

物語を忘れた外国語

 

 

 

 

 

比較的安全と考えられていたニュージーランドでも大規模テロ

ニュージーランドで発砲テロ事件が発生、多数の死傷者を出したようです。

headlines.yahoo.co.jp

ニュージーランドは比較的治安がよく安全と考えられていましたが、もう世界中に安全なところは無いということでしょうか。

 

犯人が犯行声明を明らかにしているということですが、「移民」という人々に対する反感をあらわにしており、それが動機なのでしょうか。

しかし、犯人はマオリ族ではなく、白人のようです。

なんという、無反省。

 

まあ、マオリ族と言えどニュージーランド居住歴は数千年にすぎず、とても「固有種」とも言えないのですが。

 

ニュージーランドの銃規制はどの程度のものかも不明ですが、とりあえずは連発発射可能な銃の規制を強める必要はあるでしょう。

「孫の力 誰もしたことのない観察の記録」島泰三著

著者はサルの観察を長年続けてきた霊長類研究者ということです。

まだ現役で研究を続けていますが、そんな中、娘さんに子供が生まれて初孫を持つことができました。

 

サルの社会の観察をずっと続けてきており、サルの子供の誕生から成長といったものも様々な種類で経験していますが、人間の子供というものを見ていくということは非常に興味深いものだったようです。

そこには、他のサルの子供の成長と同じような部分もあり、また人間ならではの部分もあったようです。

 

孫娘の「あいちゃん」の誕生直後から記述は始まり、その後保育園の生活を経て小学校入学直前までの6年間の成長を細かく記述されています。

母親が仕事をしていたために、あいちゃんは1歳から保育園に預けられ、また同居はしていなかったようですがすぐ近所に暮らしていたために祖父母にもかなり長い時間育てられてきたようで、そこでの観察も細かく大量にされています。

 

生まれてすぐの乳児の頃にはサルの赤ちゃんとも共通することが多いようですが、さすがに小学校入学前の頃には大人の感覚を感じさせるような行動や仕草も出てくるようです。

 

著者は孫の世話をすると、自分が自分の祖母にしてもらった世話を感じるそうです。

人間は他の動物とは異なり、乳幼児の世話を祖父母がするという特異性をもち、それが人間社会の進歩の一因とも言えるそうです。

その話にも親近感を覚えました。

 

保育園では、祖父母が保育状況を見学できるイベントもあるそうです。

そこを見ていて、子供たちがそれぞれ興味をひかれる遊びを思い思いにやっている平和としか言いようのない状況を見て、著者はかつて観察したニホンザルの群れの様子を思います。

ニホンザルでもすでに数家族が集まった集団があり、その中でほぼ同時期に生まれた赤ん坊ザルが集まって遊ぶ状況があるそうです。

 

著者は今でもマダガスカル島へサルの観察のために出張することがあるそうですが、孫娘にとっては祖父が居ない数ヶ月というのは寂しいようです。

帰ってくると駆け寄ってきて「もう行かないで」とささやくとか。

うらやましいものです。

 

孫の力―誰もしたことのない観察の記録 (中公新書)

孫の力―誰もしたことのない観察の記録 (中公新書)

 

 私にも孫が居ますので、実によく分かる話でした。

 

 

トランプ大統領、米軍駐留費用の1.5倍を支払うように求める。

ニュースにも流れていますが、トランプ大統領は在外米軍の駐留経費の在留国の負担を引き上げようとしています。

www.bloomberg.co.jp

経費全額プラス5割、すなわち150%の支払いを求めるというものです。

 

これについては、田中宇さんの「国際ニュース解説」にも取り上げられています。

tanakanews.com

現在の負担率は、実際の駐留経費に対する割合で、日本75-80%、サウジアラビア65%、韓国50%、ドイツ28%となっており、これを150%とするには、日本でも2倍、ドイツなどでは5倍以上となり、おそらく日本以外は拒否するでしょう。

 

田中さんの説くように、これはアメリカ軍の撤兵ということを実行するために、相手国からの拒絶という形を取るという、トランプの戦略なのでしょう。

アメリカの、「覇権放棄・多極化・世界からの撤兵」ということが何につながるのか。

 

中国やロシアがアメリカの抜けた穴を埋めようとするのかどうか。

いずれにせよ、安定とは逆の方向に向かうのでしょう。

「トランプのアメリカに住む」吉見俊哉著

社会学者の吉見さんはハーバード大学客員教授として、2017年9月から2018年6月までの10ヶ月の間、マサチューセッツ州ベルモントに滞在しました。

その事自体はその1年以上前に決まっていたのですが、その後の大統領選挙の結果で、その滞在には大きな意味が加わりました。

トランプが大統領選挙に勝利し、その政権が始まったのですが、最初から多くの問題を起こしながらとなりました。

これは、トランプ本人が全ての原因ではなく、アメリカ社会が持ちながらこれまでは隠蔽してきたものをトランプが遠慮なく暴き出していると感じます。

トランプ政権の第1期の前半部だけですが、その混乱の中に入り込んでの観察が為されました。

 

ハーバードに着任した著者が暮らしたのは、かつて駐日アメリカ大使として活躍したエドウィン・O・ライシャワーが大使の職を終えて帰国した後に住んでいた家でした。

これを改修して日本からハーバードに客員教授としてやって来る人の宿舎として使っているそうです。

ライシャワーが大使であった当時は、ケネディが大統領であり、その対日政策は「ケネディライシャワー路線」として知られていました。

軍事的な意味が大きい日米関係を、うまく覆い隠しながらソフトにスマートな関係として飾ったものでした。

その当時は日米双方の政府もそれを歓迎したものでした。

その後は、むき出しの軍事力の関係をあらわにしたものに代わってきています。

 

 本書記述は、トランプ大統領就任の時から問題視されていたロシア疑惑から始まります。

選挙期間中に多くの偽ニュースが流れたのは事実です。

それに対してロシアの関わりがあったかどうかが問われていますが、特にヒラリー陣営にまつわるゴシップが多かったのは確かです。

そして、それを実際に信じてしまった民衆がかなり存在しました。

これらの偽ニュースが投票結果を左右したとも言えるようです。

この問題は現在でもまだ進行中と言えます。どうなるのか、予断は許しません。

 

著者は東大の状況も熟知していますので、ハーバードでの経験は日米の大学事情の比較のためにも重要なものだったようです。

大学の研究成果の比較でも差がついているのは確かですが、それよりも学生の教育という面での両者の差はさらに大きくなっていると感じます。

その最大の差は、アメリカでは「学生が議論をする」場を設けるような教育が推進されているということです。

日本の大学では教授が話すことを聞くばかりというのがほとんどで、学生が発言することもほぼありません。

そのためには、教科数の大幅な削減と授業時間の集中が必要ですが、その方向へ日本の大学が向かうのは困難なようです。

 

アメリカン・ドリーム」の崩壊というものが労働者階級の反乱にもつながったのですが、この「アメリカン・ドリーム」というのはよく言われているように「大成功を収める」ということだけではなかったようです。

大戦後のわずかな時期だけ存在していた、中間階級の増大、労働者でも大きな家を持ち子供を育てられる環境を獲得できたということも「アメリカン・ドリーム」の一つだったようです。

しかし、そのような状況は完全に消え失せ、かつての安定した労働者の生活は失われ失業者や、仕事はあっても低収入ということになってしまいました。

そのような労働者階級の絶望がトランプを大統領に押し上げたということです。

 

トランプのあの行動にも関わらず、いやだからこそ、支持率は下げ止まり来年の再選の可能性も高いと言われるようになってしまいました。

アメリカの没落は止まらないようです。

 

トランプのアメリカに住む (岩波新書)
 

 

ピエール瀧の逮捕で多くの映画ドラマに影響 しかしどこまで自粛する必要があるの

人気俳優だったピエール瀧がコカイン使用の疑いで逮捕されたことを受け、多くのドラマや映画が影響を受けており、その損害は10億円とも30億円とも言われています。

headlines.yahoo.co.jp

特に、NHK大河ドラマの「いだてん」では重要な役どころだったため、対応が注目されているようです。

 

未公開の映画も数本あるようで、その公開も不可能となれば大変でしょう。

 

つい先日も婦女暴行で逮捕された俳優がいましたが、それに対する賠償請求も数億になるとか言われていました。

 

しかし、映画にしてもドラマにしても製作時に犯罪実行が明らかでなかった場合、それを公開したとしても法律的な問題はないようです。

そうであれば、賠償を求められても支払わずに済ませるという対応も可能なような気もします。

 

まあ、このブログ恒例の「年頭予言」が当たりましたと書こうと思ったら、今年は「芸能人の麻薬逮捕」は予言していなかった。残念。

「ヒト 異端のサルの1億年」島泰三著

新人類、ホモ・サピエンスの誕生から今までの20万年については、色々な本を読んできましたが、それに先立つ霊長類はどのように進化してきたかということについては、あまり知ろうという思いが湧きませんでした。

 

様々な霊長類の研究をされてこられた著者の島さんが一般向けに新書版で解説されたこの本は、大まかな霊長類の歴史というものを把握していくにはちょうど良いものかもしれません。

 

新人類やその他の現生人類に近い種がアフリカ大陸で誕生したということから、なんとなくそれ以前の霊長類もアフリカに居たような気がしていましたが、実は多くの種はアフリカ以外の地で過ごしていたようです。

 

キツネザルやアイアイといった原猿類はマダガスカル島に多いのですが、その多様性も非常に大きなものです。

このような原猿類はマダガスカルで誕生したのか、それともアフリカから海を渡ってやってきたのか、長く論争のたねとなっていました。

 

アフリカからの渡来説を取る研究者たちは、このような島で多様な種が誕生するはずがないとしたのですが、実はそこには大きな間違いがありました。

1億六千万年前に、マダガスカルを含むレムリア大陸はアフリカから分離し、さらに南極とも分離して孤立した大陸となりました。

8000万年ほど前にはその後インドとなる部分とマダガスカルとは分離し、インドは北上を続けてアジアと接続、マダガスカルはそのまま島であり続けました。

そして、この期間の間マダガスカルもインドもずっと熱帯域にあったことになります。

そのためにマダガスカルでもインドでも多様な生物が進化していきました。

 

霊長類が生まれたのは9200万年前と言われています。それはまだマダガスカルとインドがつながっているときであり、その子孫は双方で進化し続けました。

その時点ではアフリカはまったくそれらとはつながっておらず、アフリカへの霊長類の進入はかなり遅れたものだったようです。

 

その次の世代の類人猿、オランウータンなどはアジア南部のその当時から非常に複雑な構造をしていた熱帯雨林で誕生しました。

その頃にはインドネシアやフィリピンの間の海は大陸であり、スンダランドと呼ばれていました。

その広大な熱帯雨林で果実や葉、蕾、小さな種などを食料としてオランウータンは繁栄していきました。

 

1500万年前から1000万年前までの時期には気候が寒冷化し各地の霊長類は適応できなかったようです。

しかし、寒冷化したことで海峡が干上がり移動が可能となりアフリカにも霊長類が進入することができました。

1000万年前から900万年前までの間の一時的な気候緩和の時期にアフリカでも類人猿が繁栄します。

しかし、再び訪れた寒冷化のために900万年前から600万年前までの間はアフリカから類人猿の証拠は消え失せます。

温暖化の始まる600万年前になり、ようやく再びアフリカに類人猿が復活します。

 

ゴリラ、チンパンジー、アルディピテクスといった類人猿第3世代が誕生します。

アルディピテクスこそが、ホモ・サピエンスにつながる祖先であり、それがアフリカに居たということです。

そして、420万年前になりようやくアウストラロピテクスがアルディピテクスに代わって登場します。

この時期には、世界の他の地域に居た同じような類人猿はほとんどが死滅してしまいます。

そのために、アウストラロピテクスから進化したホモ属が世界中に進出してしまうことになります。

 

アウストラロピテクスは初めて直立して二足歩行をしたものと見られます。

さらに、その食生活は従来の果実食から「骨食」に変わりました。

これは、ライオンなどの猛獣が倒して内蔵や肉を食べて残った動物の「骨」を割って骨髄を食べるというものです。

そのために、非常に強い臼歯と石などの道具を使うことを発達させました。

 

その後、ネアンデルタール人やデニソワ人といった、ほとんど現生人類と同じと言える人類が誕生し、最後にホモ・サピエンスが誕生して世界中に拡散していきました。

近い種類の人類と比べても特徴的なのが、ホモ・サピエンスでは出産間隔が短いということです。

最短で2年、平均でも3.7年で次の子を生むというのは、ゴリラの4年、チンパンジーの5.2年と比べても短いものです。

これを可能にしたのがホモ・サピエンス社会の特殊性であり、生まれた子供たちを母親だけでなく年長の子供、子供の居ない大人、そして老齢者が皆で世話をするという特徴でした。

また、イヌを家畜として一緒に暮らすようになったということも大きかったようです。

本書では、この影響でヒトの脳の重さが減ったと言っています。

それほど依頼しきった生活になったのでしょうか。

 

あまり知らなかった内容が満載で、驚くほどでした。

 

ヒト―異端のサルの1億年 (中公新書)