爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「少子化対策が日本をダメにする」和田秀樹著

精神科医ですが、評論家などとしての活動の方が良く知られている著者が、8年前に少子化対策という論議が活発なことに反発して書かれた物が本書です。
いろいろな論点があるところですが、著者の主張を一言で言うと「劣った者をいくら増やしてもかえって悪くなる」ということで、相当な反発があると予想されるのですが、そんな反論は気にもかけないのが和田さんと言う方ではないかと思います。

本書出版当時の小泉内閣での少子化対策では、補助金を出すと言う形だったようですが、そのようなやり方で出産を奨励してもニートフリーター予備軍を増やすだけではないかと言うことです。お金を貰えるから出産するという親がもしいたとしても、そのような親がきちんとした教育を子供にさせるとは考えられないという主張です。親の面接をして、補助金を出すかどうか決めろという、まあかなりの極論です。

産業のロボット化が進み、実は単純労働力はもはや必要とされなくなるだろうという予測をしています。そのため、必要となるのは高度の知力を持った人々であり、それが確保されるようなら少子化も問題ないということです。

それよりも問題なのは、一段と進んでいるような学力低下であり、これが実は現在までの「少子化」の最大の危険性だということです。つまり、少子化により子供が進学するのに努力が要らなくなった。そのために勉強しなければという必然性がなくなり、学力も低下したのではないかと言う推測です。まあそのような側面もあるのかもしれません。反論は多いでしょうが。
高校全入という状況になって中学生は勉強しなくなりました。大学も全入に近くなれば高校生も勉強しなくなるということです。
しかし、本当は勉強の動機が「受験」というのでは危ういというのも著者は語っています。入学してしまえばそれで終わりというのでは困ったものです。日本では下半分の学力の生徒の落伍が深刻です。これを何とかすると言う方が緊迫した問題だそうです。
「質」より「量」ではいけません。大学なども「卒業資格認定試験制度」というものを取り入れて最低限の学力がないものは卒業させないという制度を実施すべきと言うことです。

なお、少子化で問題とされている年金制度についても日本の老人という人々はまだまだ働きたいという意欲と能力を備えており、それを活用すべきということです。実は定年退職した技術者が中国などへ指導に招かれるという事例が頻発しているということで、これで技術格差も一気に小さくなっているとか。年金制度などと言うことを問題視している間にもっと大切な問題が進行しているという指摘です。

少子化でも良いからもっと国民のレベルを上げろと言うのが著者の主張でした。それはそうなんでしょうが、あまりレベルが上がるとそれにつりあわない政府が困るのでは。