爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「魚が食べられなくなる日」勝川俊雄著

著者の東京海洋大学勝川さんは、水産資源管理がご専門ということで、他の著書を読んだこともあり、またツイッターでは色々と情報発信をしておられます。

本屋でこの本を見かけ、パラパラと見たところ一般向けに水産資源の問題について解説されているものと思い、久しぶりに自前で購入しました。

 

以前にも別の場所で耳にしたところによれば、漁業に関する情報というものは非常に乏しく、現場の生の声などというものはほとんど外部には届かず、断片的なものがあまり事情も知らない記者たちによって流されるだけだそうです。

その意味でもこの本が広く読まれれば良いのですが。

 

クロマグロニホンウナギが危ない、サンマが大不漁、などのニュースが流れることはあっても、それがどのような意味を持つのか、ほとんどの人には分からないままのようです。

 

クロマグロは、世界的に資源管理の会議が行われているようですが、そのニュースも断片的でよく分かりません。

減っているのか増えているのかもぼんやりとしています。また一応の漁獲量制限はあるようですが、取り過ぎたとか、場所によって取れなくなったとか言われています。

しかし輸入品は多いようですし、ノルウェー産のサバなどは大きなものが売られています。

 

どうやら、水産資源というものは明らかに減少しているのは確かなようです。

そのために、漁獲規制という政策がほとんどの国でとられています。

日本でも一応の規制はあるようです。

 

世界の漁業というものを概観した、世界銀行の「2030年までの漁業と養殖業の見通し」というレポートが、2013年に発表されました。

そこで国と地域別の今後の漁業の生産量の予測が掲載されています。

そこでは、漁業の未来は決して暗いものではありません。かなりの伸びが予想されている地域もあり、全体として成長が期待されているのですが、その中で「日本だけ」がマイナス成長という予測です。

 

実は、特に漁業の先進地域、北欧やニュージーランドなどでは、かなり以前から厳しい漁獲規制の政策を取っており、それがようやく功を奏して生産量が安定的に増加し、漁業という産業自体も発展しているのです。

こういった地域では、「個別漁獲枠制度」という方法で漁獲規制を行っています。

これは、各漁業者個別に、その年に獲って良い漁獲高を設定し、それ以上の漁獲を禁止します。

これに対し、日本の漁獲規制は「オリンピック方式」とでも言うべきもので、魚種の年間の漁獲高の上限を決めてしまい、そこまでは自由に獲らせるというものです。

したがって、漁期が開始するやいなや、漁業者は競争で漁場へ急ぎ、競争で獲ってしまうということになります。

これがなぜ問題かというと、手当たり次第に全部捕らえるということで、幼魚なども根こそぎ水揚げしてしまうということになり、水産資源がどんどんと減少していくことになるからです。

 

先進国ノルウェーなどの個別漁獲枠制度が優れていることが知れ渡り、それを採用する国が増えており、自由の国アメリカでも遅ればせながらその採用に踏み切ったそうです。

未だによーいどんの漁獲競争をしているのは、日本くらいのものかもしれません。

 

養殖や種苗放流(稚魚を漁場へ放す)を努力しているという漁業者も居ますが、これらもどうやら漁業救済の力はないようです。

養殖でも発展しているのは昆布やわかめなどの海藻類、牡蠣等だけです。これらは餌をやる必要がありません。

ところが、ブリやマグロなどは養殖といっても大量の魚を餌として投入しなければなりません。その確保も難しくまた給餌の人手もバカになりません。

 

「個別漁獲枠制度」が唯一の漁業振興政策となるのは間違いないようですが、日本では水産庁も漁業者もその採用には否定的です。

「日本の漁業者はモラルが高く資源管理の意識も高い」とか、「日本には早どり競争はない」などと、まったく実情とは異なる言い訳をしているそうです。

その挙げ句、漁業者自身も漁業の継続に望みを持てずに後継者も居らず高齢化が進んでいるだけ、あと数年で漁業者も激減という予測もされています。

 

漁獲枠規制先進国では、多くの魚種の規制を行っているようですが、日本では生産量の多い魚種は少なく、せいぜい11種の魚種(サンマ、スルメイカ、サバ、マアジ等)を規制するだけで十分に効果は上がると見ています。

これを、各漁業者ごとに漁獲枠を決めていけばよいのですが、漁業者は皆できるだけ多い漁獲枠を望むでしょうから、全員が満足できる配分にはなりません。

ただし、この本で強調されているのは、「離島特別枠」を定めるべきということです。

 

離島での漁業は、地域の産業として重要なものであり、これが残らなければ離島の人口自体がどんどんと減ってしまって社会も消えてしまう可能性もあります。

そうなれば、離島の維持すら危なくなるからということです。

 

漁獲枠規制を、各漁業者に個別に行うと、急いで獲る必要がなくなります。

その年の枠は決められているので、幼魚の段階で焦って獲ってしまうということもなくなり、漁期の後半で十分に成長してから穫れば良いということになります。

これは、ノルウェーのサバでも見られるように、大型の魚を水揚げでき、高価で販売できるという利点が生まれます。

世界の漁業の実情でも、生産高自体はあまり伸びていないところもあります。しかし、魚が大きく成長しており、販売単価が上昇しているために販売額が増加、漁業も成長しているということになるそうです。

 

またも、日本の官庁と業界団体という連中の愚かさを知ることができました。

こういう「既得権益者」はなんとかして排除しなければならないのでしょう。

 

魚が食べられなくなる日 (小学館新書)

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