爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「フェルメールになれなかった男 20世紀最大の贋作事件」フランク・ウイン著

17世紀オランダの画家フェルメールはよく知られており、「真珠の耳飾の少女」などは誰でも目にしたことがあると思います。
しかし、フェルメールは昔から巨匠として認められていたわけではなく、最近になって「再発見」されて人気が上昇してきました。
そのためにその絵画が由緒を明らかにしてずっと保有されてきたということではなく、実際に本人がどれだけの絵を描いたか、どのような画風だったのか、そういった詳細はよくわかっていませんでした。
その隙をついて20世紀前半の画家「ハン・ファン・メーヘレン」がフェルメールの作風を完全に再現した贋作を大量に作成し売り払いました。
そして絵画専門家と言われる人々もそれをまったく見抜くことができず、お墨付きを与えてしまって混乱をさらに大きくしてしまったそうです。

ハン・ファン・メーヘレンフェルメール贋作が明るみに出てしまったのは意外な成り行きによるものでした。第二次世界大戦終結後、ドイツに渡った重要な文化財を調査している際にゲーリング元帥の絵画コレクションが見つかりました。その中にフェルメールの名作が含まれていたのですが、その入手経路としてファン・メーヘレンが浮かび上がりました。もし彼がそれに加担していたらドイツに国宝級の文化財を売り渡したとして厳罰に処されることになります。
その時に彼が告白したのは「それは自分が描いた」でした。そしてフェルメールの贋作の大量作成が明らかになったのでした。

ハン・ファン・メーヘレンはオランダのデーフェンテルという町で1899年に教師の子供として産まれました。子供のころから絵が好きだったのですが、父親は息子を教会の司祭か教師にしかしたくなかったようです。それに反抗して建築家となると偽り大学で絵の勉強をしたのですが、自分の自信とは裏腹に社会からは認められることなく生活は困窮したようです。
そのため、フェルメールの作風を研究し彼であれば描いたかもしれないような作品を描くということを始め、それを専門家に本物と認めさせることで莫大な金を得たということです。
それは現在でも詳細な化学分析をしなければ贋作であることの証明が難しいほどのものであり、当時の専門家としても判断は難しかったのかもしれません。

今でもフェルメールの真作とされているのは35作であるものの、決め手のないまま可能性があるとされているものも何作かあるようです。まあジャン・バティスト・コローの真作は2800であるのに、流通しているのは7000作以上というのですから、もっとひどいのはたくさんあるんでしょう。魑魅魍魎の世界と言うべきでしょうか。