爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「フリーフォール グローバル経済はどこまで落ちるのか」ジョセフ・E・スティグリッツ著

ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツが2008年の経済危機について2010年に書いた本です。リーマンショックと言われる大規模な危機の対策として巨額の公的資金投入があったにも関わらず、金融機関の経営者は変わらずに巨額の報酬を受け取ったということが報道されたのは記憶に新しいところですが、それらの金融機関などの投資家の批判が多く記されています。

どのような危機であったかということも少々忘れかけていたこともあったので見直してみましたが、2007年のサブプライムローン破綻に始まり、翌2008年には数々の金融機関破綻が続き、リーマンブラザースの破綻をもって最大の危機となりました。それに対し、「大きすぎて潰せない」というどこかでも聞いたような言葉を吐いて政権は多額の資金供与を行ないなんとか食い止めたと言うところです。
その後株価の持ち直しを見ると順調に回復しているようですが本当のところはどうなのでしょうか。そこまでは本書は触れていませんが、おそらく何らかのバブルがおきているのでしょう。

ソ連崩壊で共産主義の敗北が明らかになってからのわずかな間は、この資本主義というものがもっとも優れたシステムだと言う信仰のようなものができてしまいましたが、数度に及ぶ金融危機でそれがまったくの誤りであったことがわかってしまいました。
それに拍車をかけたかのようなブッシュ政権からオバマに代わったことで著者も一縷の希望を感じたそうですが、それもすぐに落胆に変わってしまいました。銀行の救済処置はオバマもブッシュ同様に甘いものだったようです。

サブプライムローンまでに拡大した住宅ローン金融工学による粉飾は多くのアメリカ人の生活を崩しただけでなく、外国からの投資も巻き添えにしたのですが、その実施担当者は高額な報酬だけを手にして何の責任も取らずに終わっているようです。こういったモラルの欠如も問題となっています。
こういった状況を作り出した容疑者には、直接売り出した住宅ローン会社がいちばんですが、それを支えた銀行や格付け会社も同罪です。さらに事態を黙認することで悪化させた金融規制当局やFRBグリーンスパンバーナンキも危機発生を許した責任者として著者は非難しています。

それで破綻した銀行を「大きすぎて潰せない」と称して救済したのですが、それで少なくとも内部構造や業務の適正化などはきちんと監視されたなかで実施されなければならないところが、「大きすぎて財務リストラもできない」とごねだし、結局何もせずにただ救済資金だけを政府から受け取るということになってしまいました。これらの詐欺的な政策を決定したのは政権の中で財界出身者のメンバーであった者たちです。

アメリカの国内の救済ではそのようなことをしたにもかかわらず、海外の危機の対処には厳しい処置を求めて実施してきたのがアメリカ当局です。完全なダブルスタンダードで強欲資本主義のしもべともいえるものでした。
著者はそのような政策の誤りを犯した政権もさることながら、経済学者がその先棒を担いだとして強く批判しています。
新しい社会に向けて改革をすべしということでしょうか。

著者はおそらく現在の一見順調な回復にもおそらく今後の危機を予知したような発言をされていると思います。チェックしていきたいと思います。