爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「見えてきたTPPの正体」石田信隆著

著者は農協系の金融機関である農林中金の勤務を経て、現在は農林中金総合研究所の研究員をされているそうです。
農協はTPPによる農業への影響を重要視して絶対反対という立場ですが、この本ではそれだけでなくTPPの日本への影響を種々挙げており、広い視点をお持ちのようです。

この本は2012年の出版ですのでまだ交渉参加以前の段階ですが、現在でもアメリカとの交渉の最中であり、関税などについての進展があまり無いまま膠着している状況ですので、本書の問題点はほぼそのまま現在でも残っているのではないでしょうか。

日本の経済界には韓国とアメリカとのFTAが先にまとまったために乗り遅れるからTPPに参加を急げという雰囲気がありました。しかし、韓米FTAは韓国のごく一部の大企業を潤すことはあっても国民のためにはなっていないということです。
日本においてもTPPにより関税がなくなっても輸出産業が伸びるということはもはやあり得ず、(これは現在の円安状況下でもさほど輸出が増えていないことからも明らかです)輸入品が増えるばかりということになるということです。

それよりも問題なのは投資家とその対象国政府との間の紛争の解決のための「ISD条項」というもので、投資家が不利な状況になった時に解決するための機関を設けそこに提訴できるようにするというものですが、これも実例が示すように投資家に有利な裁定が下される傾向が多くなりそうで、結局はアメリカの投資家が世界制覇をするための道具にすぎないそうです。
また、よく言われるように医療についてもアメリカの企業の参入を容易にするという方向になり、貪欲な企業のために崩壊しているアメリカの医療の二の舞になるとか、食品安全でも独自の規制をすることができなくなり危険になるといった予測ができます。

アメリカの下僕とも言える首相はどうするのでしょうか。