私は小説は原則として読まない、特に現代小説は。と言っていたんですがちょっと関わりがあって阿川大樹氏の「横浜黄金町パフィー通り」を読んでみました。
横浜の中区黄金町とは、京浜急行で横浜から逗子方面に3つめの黄金町駅周辺ですが、つい最近まで違法な売春地帯として有名だったところでした。
この本はその黄金町が住民たちの運動によって売春追放に成功するまでを、ドキュメンタリーではなくフィクションとして描いたものです。
あとがきにもあるように、「この物語は実在する町とその歴史を題材にしていますが、あくまでもフィクションであり、事実関係において必ずしも現実と一致するものではありません」ということです。
ただし、実際にこの町が違法売春地帯から抜け出したことは事実でしょうし、それがどの程度脚色されているのか少し分かりにくいものです。
導入部は、運動成功後に写真を撮るのが好きで町に訪れる女子高生を主人公としていますが、これは架空の人物だろうとは思います。
しかし、その他の登場人物である町の住人たちはモデルとなった実在の人物が居たのではないかと思わせるようなものになっています。
売春を稼業とする店は終戦後のドタバタに乗じて京浜急行のガード下に居座り営業を続けていました。
最初は日本人女性が主であったのでしょうが、その後はアジアからの出稼ぎ違法入国者によって続けられていました。
暴力団の資金源として使われていたようです。
それが、阪神淡路大震災の影響で京浜急行も高架線路の耐震工事補強をしなければならないということになり、ガード下の店も立ち退きを迫ることになりました。
それで、売春地帯も解消されるかと思ったら付近の住宅などを買い上げてそちらに移転して続けるということになってしまいました。
それで町を破壊された住人たちが追放運動を組織し、ちょうど行政側の動きとも一致して浄化に成功したというのがあらすじですが、それを架空の登場人物の物語として色々な方向から描き出しています。
違法営業店の追放には成功しても、それらの店舗は空き家のまま放置され、その人々や客を相手にしていた飲食店なども閉店を余儀なくされるなど、町の再生にはまだ長い時がかかりそうです。
著者が単なるドキュメンタリーではなくフィクションとしてこの物語を作り上げた趣旨は何だったのでしょうか。
やはり人の心の動きを活写するのはドキュメンタリーでは難しかったからでしょうか。
それが、単に売春店追放に成功して良かったというだけに留まらない地域の問題の描写にも表れているのかもしれません。