爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「製造業崩壊 苦悩する工場とワーキングプア」北見昌朗著

著者は名古屋で社会保険労務士として中小企業の労務コンサルタントを多数受け持っていられるそうで、その経験から特に製造業で危機的な状況になっていると訴えています。
この本の出版は2006年でリーマンショック寸前で若干景気が上向いた頃ですが、その恩恵も大企業だけで中小企業まではなかなか回らなかったところであり、また団塊の世代が定年退職を迎えるという「2007年問題」を前に技術継承の問題点が大きくなってきたころです。

著者の分析でも製造業の中小企業では若年層の短期間での離職が増えてきて、数名のベテランと大多数の派遣社員、アルバイト、外国人で動かさざるを得ないという企業の現状と言われています。
ただし、その原因というのは入社しても地道な技術の習得に耐えられない若者に主因がありと言うもので、本当にそうだろうかという感想を持たざるを得ません。

入社3年以内に離職する若者が相当数に上ると言うのは統計からも明らかなようですが、退職後の再就職というのは非常に難しいものであり、結局正社員の道は閉ざされてパートや派遣社員となりワーキングプアへの道をたどるというのは実際にそうなのでしょう。
また、そのような退職者が多い企業では採用費用というものもバカにならず、また入社数年の人件費も無駄になるため企業としても金を捨てているようなものでさらに業績悪化につながると言うものです。
そういった企業では技術の継承と言うものもできず、製品の品質悪化につながり製造業としても存立にも悪影響を及ぼし、崩壊寸前というのも事実でしょう。
著者のそれらに対する対処策としては、中小企業経営者が若年労働者の生活まで配慮し、「オヤジ」的な労務管理をし、時には飲みにも連れて行けといったものです。

ただし、この本の執筆当時には今表面化しているような極端な長時間労働といった労働環境悪化というものは無かったのでしょうか。出勤も始業の5分前、定時になったら帰りますと言う若者を批判していますが、実際は毎日真夜中までサービス残業と言った労働者がうつ病になるなどの問題が激化しています。このような視点が全くないのはどういうものかと思います。もしかしたら著者の顧客の中小製造業ではそのような工場はないのかも知れませんが。

私(筆者)の子供も名前を言えば誰でも知っているような大きな会社に入っていますが、毎日真夜中まで仕事をしているということで、親としては身体を壊さないかということばかりが心配になっています。そのような労働環境についていけない人も甘えていると非難されなければならないのでしょうか。ちょっとそれは違うだろうと思うのですが。