植物や動物などに興味を覚え、自然の中からそれらを見出すことを趣味とする人たちがいます。
やはりある種の生物群を対象に見ることが多いのでしょうが、そうやって見つけた生物はいったい何という生物なのか。
それを知ることはかなり難しいことです。
そんな時に力になるのが「図鑑」というもので、子供向けからかなり専門的なものまで多くの本が出版されています。
しかし、そういった図鑑を手にして実際の生物を見てもなかなかすっきりとその生物の名前というものに行き当たりません。
その原因は何なのか、現在は学校の理科教諭を勤めているそうですが、少年時代からハエトリグモに興味を持ち、日本全国のハエトリグモ全種の蒐集を目標として論文を取り学位も取ったという、著者が「図鑑の使い方」そして「生物の学名同定の難しさ」について解説をしています。
なお、著者はこの本を書くにあたり、自分の専門分野とは全く違う生物群、植物のシダ類の同定ということに取り組み、全くの素人が図鑑を用いて生物同定を行なう難しさというものを体験し、それを図鑑の使い方、さらには図鑑の書き方についても考察しています。
中々の力作と言えるでしょう。
まず最初に書かれている言葉が「教本を買っただけではバイオリンは弾けない」
それと同じように、図鑑を買っただけでは生物同定はできないということです。
生物の種を分類するためには、さまざまな形質によっています。
まずその形質が何なのか、羽根の形なのか、顎の形なのか、そういったことを知らなければ分類の一歩目から迷います。
さらに、形態を分類の条件としている場合に迷うのが、一個体ごとに少しずつ変わっている変異というものです。
同じ種の生物であってもかなり異なる形状の場合が多く、なぜそれが同種なのかよく分からないといったことがしばしば現れます。
これも分類学的には理由があって分類されているのですが、それを初心者が理解するのは難しいものです。
なお、形態を分類の条件とする生物においては、写真よりも線画が有効である場合も多いようです。
写真というものは情報量は多いのですが、それが逆に作用して生物の形状の特徴の中から分類に有効なものを拾い上げるには向いていない場合もあるようです。
なお、上述した著者が挑戦した「シダ類の同定」ですが、そのためにまず掲載数の少ない入門用の図鑑とやや高度な詳しい図鑑を入手しました。
そして簡単な図鑑を見て際立って特徴的な形態を覚え、そこから同定に必要な形質をチェックしていったそうです。
自分で見つけたシダを同定する場合も、写真を撮りさらに線画を書いて特徴を見つけ、それが図鑑にあるものと「どこが違うか」を見つける感覚を養ったということです。
写真や線画を多く保存して同定の役に立てるということですが、植物や昆虫などではやはり実際の生物の標本を保存するのが一番有効なようです。
難しい場合も多いのでしょうが、可能な限り保存しておくのが良いのでしょう。