居酒屋といっても最近では全国チェーンの大きな店が多いのですが、この本でいう「居酒屋」とは昔ながらの夜の繁華街の少し外れたところにある、小さな店で大将とせいぜい女将さんか手伝いの女性がやっているような、そういった店を指します。
そういった居酒屋について、色々な方向からあれやこれや書いていったという本です。
著者の池内さんも、30代前半の頃に「二合半」という居酒屋に偶然入ってから長く通うようになり、いよいよそこの主人が年を取って店をたたむまで30年以上付き合ったという経験をお持ちです。
最初は「居酒屋とはどういう飲み屋であるか」というところから話が始まります。
中には「居酒屋何々」と店名にも名乗っている店もありますが、それ以外にも一応ソバ屋、天ぷら屋、豚カツ屋、ウナギ屋のような見せかけでありながら、実態は居酒屋という店もあります。
そういった店はソバ、天ぷら、豚カツ、ウナギは確かにメニューにあるものの、それ以外に居酒屋的メニューが揃っており、客はそちらから先に注文してその店の看板メニューは飲み終わった最後の〆に頼むだけということもあるようです。
居酒屋という店にはたいてい「常連」が居ることになっていて、彼らが毎夜店のカウンターを占拠します。
知らない店には入りにくいというのは、それがあるせいもあり、そういった場合は入店したらすっと普通は常連さんが座らないような席、たいていは奥の荷物置き場に進んで目立たないように座ることだとか。
なお、「入ってすぐに後悔する店」もしばしば目にするところで、常連も付かず主人もやる気無さそうに立っているということがあります。
それでも何も飲まずに帰るというわけにもいきませんので、一品か二品たべて一杯飲んで帰る必要はあります。
居酒屋の食ということいも一章を割いてあれこれと書いています。
おそらく東京の事情だと思いますが、居酒屋の中には大将の出身地にこだわった料理ばかり出すという店もあります。
大将の人脈もあるのでしょうが、現地でなければ調達できない食材を直送などとうたうところもあります。
一方、地方にはこだわらずに各地の美味いものを手当たり次第に選ぶという店もあります。
どちらが好みかによって分かれます。
一方、居酒屋の酒というものは意外になおざりにされている場合が多く、日本酒などは決まった銘柄しかないということもあります。
おそらくはメーカーや酒店の圧力でしょうが、居酒屋と名乗るならもう少し酒に気を使っても良いかも。
ただし、逆に「全国の地酒」を売り物にした店もありますが、あまりに品種が多すぎてどれを選んでよいのか分からなくなるのが関の山です。
お薦めの酒を数種類、飲ませてくれればよいのですが。
こういった居酒屋のようなスタイルの店というものは、外国へ行っても必ずどこかにあります。
池内さんはヨーロッパへ行った際も町を歩いて向こうの居酒屋を見つけ出し一杯飲んで帰ってきたそうです。
とはいえ、そういった店はガイドブックに載っているわけでもなく、看板も出ていないのですが、見つけ方にコツがあり、「居酒屋に行きそうな男たち」を見つけて後をついていくと大体そういった店に入るとか。
言葉は通じなくても、だいたい似たような食べ物が並んでおり、それと指させばちゃんと食べさせてくれるそうです。
以前はあちこちにあったようなこういった居酒屋ですが、このところすっかり減ってしまったように感じます。
なかなか味のある場所だったと思います。