爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「世界『失敗』製品図鑑」荒木博行著

著者の荒木さんの前著は「世界『倒産』図鑑」というもので、この本は私も読んだことがありなかなか面白いものだと思いました。

しかし本書「はじめに」でも書かれているように、前著は売れ行きも良く読者の反応も多かったものの、どこか「他人事」のように考えられている傾向があったそうです。

やはり「倒産」というのはかなりの事なのでしょう。

 

「失敗」ということを貴重な教訓として活かしてもらいたいという意図がそれでは伝わらないということで、本書の「製品は失敗したが会社は生き残った」という例を解説することとしたそうです。

 

本書で取り上げられている失敗例は、いずれも世界的な大会社のものばかりです。

ただし有名な失敗もあるものの、あっという間に撤退したので聞いたことのないものもありました。

それでもその損失は大きなもので、普通の会社なら吹っ飛ぶほどのものもありそうです。

 

20の例が取り上げられています。

コカ・コーラ「ニューコーク」、任天堂Wii‐U」、東芝HD-DVD」、セブン-イレブン・ジャパン「セブンペイ」、モトローライリジウム」といったところは結構有名な話でしょうか。

一方、アマゾン「ファイアフォン」、フォード「エドセル」、ファーストリテイリング「スキップ」なんていう所は会社は有名でもそんな製品あったのと思うようなものでした。

 

2013年4月に台湾のスマートフォンメーカーのHTCは「HTCファースト」というスマートフォンを発売します。

これはフェイスブックホームというものが「ホームアプリ」として搭載されているというものでした。

他の基本スペックは普通のアンドロイドと変わらないのですが、そこだけが特徴で、もちろんフェイスブックの戦略で作らせたものでした。

そしてこれはグーグルへのフェイスブックの挑戦状だったのです。

しかし肝心のフェイスブックホームには悪評ばかりが立ち、ほんの数か月で消え去りました。

しかしどうやらこれは失敗は織り込み済みであったようです。

フェイスブックは本来はOSを自分たちで作りたかったものの技術的にまだ不可能ということで「OSを握られた中で主導権を取り戻せるか」ということを試してみたようです。

それに失敗してもまた次の策を探っています。

 

2001年5月、ユニクロファーストリテイリングは「野菜事業」に参入ということで、「スキップ」という会社を立ち上げました。

既存の野菜事業は品質向上と無駄の削減でかなり改革の余地があると見てのチャレンジでした。

永田農法という栽培法で品質を向上させるとともに、農家に対する引き取り保証、中間マージンの削減、販路拡大を通じてスケールメリットを成し遂げるという、ユニクロの衣料と同じような商法を実現しようとしたのです。

これを発案したのは社員の柚木治氏でした。

しかしその農法で栽培をしてくれるという農家の確保が難しく、結局は欠品ばかりとなり失敗しました。

これを著者は「プロダクトのレンズを外すことができなかった」と評しています。

「顧客視点」ということを口だけでは言っていてもその視点で深く考えることが必要だということです。

なお、失敗した柚木氏ですがその後ファーストリテイリングの中でも成長分野の「GU」を率いているということで、その経験が活かされているということでしょう。

 

セブン-イレブン・ジャパンが2019年、独自のバーコード決済サービス「セブンペイ」をスタートさせました。

その当時は各種決済サービスがどんどんと出始め、ペイペイやエーユーペイ、ラインペイ、楽天ペイなど各社入り乱れての戦が始まっていました。

出遅れたセブンペイはアプリ開発の方針を転換します。

新たにゼロベースで決済用アプリを開発するのではなく、既存のセブンイレブンアプリに決済機能を導入するというものでした。

先行しているペイペイを意識してのことだったのですが、それが大失敗のもととなりました。

サービス開始が7月1日だったのですが、早くも翌日には「身に覚えのない取引があった」という問い合わせが続発します。

セキュリティーの甘さを突き国際犯罪組織がアカウントの乗っ取りを行いました。

「2段階認証」を導入していなかったということは、その当時のニュースでも取り上げられ記憶にあります。

この原因は結局は「トップの極端なまでの視野の狭さ」だとこの本では指摘しています。

「わが社は他社とは違う」という考えがこのような事態を招いたということです。

 

いやー、他人の失敗は面白い。