著者の児玉さんは戦前から戦後にかけて洋画の輸入・興行を行っていたということで、上映されなかったものまで含め数多くの映画の試写を見てきたそうです。
その見方も、細かいところまで多くのデータを取りながらのようで、それこそ洋画の生き字引のような人だったのでしょう。
引退後にそれらをまとめておこうと思い立ったのでしょうか、この本出版の1980年前後に他にも数冊の本を著しています。
この本は、特に「ミュージカル」というものを時代順にまとめたもので、1940年の「青きダニューブの夢」から1978年の「グリース」までを紹介していますが、一番多いのはやはり1950年代のものです。
またミュージカルといえばアメリカハリウッドと思いますが、ヨーロッパ各国でも盛んに作られていたようで、それらも紹介されています。
紹介されたミュージカルは76作品、主演者と簡単なあらすじの他に、脇役の中から一人について詳しく紹介されています。
ミュージカル映画というものが成り立つのはもちろん音声が映画に流れるようになった「トーキー」となってからのことで、1920年代からのことです。
その頃のドタバタを扱ったのが有名な「雨に唄えば」で、それまでのスターでも歌の歌えない人は出番がなくなるという状況を示していました。
それとは逆に、トーキーで歌を披露することでスターに上り詰める人も出てきて、モーリス・シュヴァリエはそれで一気に開花しました。
当時はまだミュージカルとは言わずに「レビュウ映画」と呼んでいたそうですが、1930年代にはビング・クロスビーとジンジャー・ロジャースが「空中レビウ時代」でその最盛期を表現していました。
後半部分の作品は聞いたことがあったり、実際に見たものもありますが、1950年代までのものはさすがに主演者は名前だけは知ってはいるものの、映画名も知らないというものが多かったようです。
もう今となっては振り返る人も少ないのでしょう。
それでもグレンミラー物語、ベニーグッドマン物語といったものは有名かもしれません。
サウンド・オブ・ミュージックは今でも知らない人はいないでしょうが、モデルとなったトラップ大佐一家を扱った別のミュージカル映画も作られていたということは知りませんでした。
サウンド・オブ・ミュージックに先立ち、ドイツ映画の「菩提樹」(1956)、「続菩提樹」(1958)が作られていたそうで、そこそこの人気を得ていたそうです。
もう一つ豆知識。
1968年の映画で「ファニー・ガール」がありますが、これは1920年ごろに舞台のミュージカル女優として脚光を浴びていたファニー・ブライスの伝記映画です。
その名の「ファニー」というのは、よく使われる「おかしな」という意味の言葉ではなく、ファニー・ブライスの本名だったとか。
(ただし、ブライスの方は芸名です)
楽しく見ることができれば良いようなミュージカル映画ですが、蘊蓄を知っておくのもいいかも。