バブルの崩壊から延々と続いた不況の時代、平成の年号の時代はちょうどそれと重なります。
バブルからの回復を目指してさまざまな施策が行われましたが、そのほとんどは効果を上げることができませんでした。
金融政策の不十分さなどをその原因として見る人も多いようですが、この本では著者の野口さんはその見方は間違いであるとしています。
野口さんは1940年生まれ、ちょうど平成の時代は50代から70代と、社会の中心となっていった世代に属していますので、政治や経済の焦点となって登場してきた人物たちの中には知人も多く、その点でも感慨を受けることも多かったようです。
この本では平成の時代をほぼ時系列に沿って記述していますが、その視点はほぼ「世界経済がこの時代に大きく転換したこと」そして「日本人はそれに気づかずに従来の観念に囚われていたために世界に後れを取ったこと」に基づいています。
ちょうどこの時代にIT革命が起き、生産拠点は中国などの新興国に移り、アメリカはGAFAに代表される企業群によって復活しました。
しかしそれを取り入れることができずに製造業中心の観点から脱却できなかった日本は何をしても上手く行かなかったということです。
そこには、「製造業などはアジアの新興国にやらせて、儲けになることだけやれば良い」といった姿勢が感じられ、トランプがアメリカの労働者に訴えかけて大統領になった背景は無視されているようです。
「アメリカの経済」自体は急激に回復し世界を再度手中に収めながらも、「アメリカ国民の大多数」は置いていかれた。
そのことはあえて?考えから外してしまったのでしょうか。
とまあ、著者の基本姿勢には少し疑問点もありますが、書かれている事実自体は非常に的確、疑問点はありませんので、その中から印象的なところは書き留めておきます。
1990年代の不況を説明するものの中で、宮崎義一氏の「複合不況」という本は非常に広く売れ、多くの人に読まれました。(私も買って読みました)
その内容を一言でまとめると、
「バブル崩壊によって銀行が不良債権を抱えたため、貸し渋りによる信用逼迫(クレジット・クランチ)が起こりその結果投資が減少した」
「株価下落によって銀行保有株式の含み損が減少したため自己資本が減少し資産を圧迫せざるをえなかった」
ということです。
このような「経済停滞の原因が金融にある」という考え方は現在でも多くの人に残っており、そのために「金融緩和を行えば経済が活性化する」ないしは「金融緩和が足りなかったので経済再興に失敗した」ということが多くの論者によって語られています。
しかし、著者の考えでは「原因は金融面ではなく実体経済であった」ということです。
ちょうどその当時に世界経済の大変化が起きていました。
中国が工業化し世界の製造工場となっていきます。
そしてIT革命の第2段階が始まりました。
こういった状況を取り入れ、その先端に立ったアメリカのIT企業や中国の製造業が急激に発展していきます。
しかしその状況に対応しようともせず、相も変わらず製造業主体の経済を作ろうとしていた日本は世界の動きに大きく後れ、それが停滞の原因となったというものです。
製造業は世界的に「垂直統合から水平分業へ」と向かいました。
アップルなどは商品を設計するだけに特化し、製造は中国などに任せることで大きく発展しました。
しかし日本の企業はあくまでも垂直統合にこだわりそれが競争に敗北する結果となりました。
その後も大きな事件が相次ぎます。
バブル崩壊にともなう混乱で多くの企業が破綻し、大蔵省のスキャンダルも相次ぎ信頼が崩壊していきます。
2000年代には偽りの回復が起き、工場の国内回帰といった時代に逆行することも起きたためにそのあとの反動も激しくなりました。
アメリカの住宅バブルが広がり、それが日本の輸出産業も活性化したのですが、あっという間に崩壊しリーマンショックとなり、日本の輸出も減りました。
それを少しでも食い止めようと今度は中国頼りの輸出再建となりました。
しかし、製造業は政府政策に依存するようになり自律性が失われます。
アベノミクスが始まりますが、異次元金融緩和などと言っても実際にはマネーストックを増やす働きは無く、トランプ当選で円安になったものを自分の功績かのように宣伝しただけでした。
追加緩和、マイナス金利導入などとさらにその対応を進めましたが効果はありませんでした。
相も変わらず、「デフレからの脱却」などと言っていますが、日本のやるべきことはそうではなく「経済のパフォーマンスを上げること」のはずです。
変化に対応する体質改善がそれであり、新しい産業の登場に対応することがカギだということです。
確かに、GAFAなどや中国に対抗するにはこういった対応をしなければならないのでしょう。
しかし、それでアメリカや中国の大衆がどうなったか、その視点が無ければいくら日本企業が勝負に勝てるようになっても、仕方ないような気もしますが。