爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「世界SF作家会議」早川書房編集部編

新型コロナウイルス感染症が世界中に広がった2020年、このような世界はどうなっていくのか、SF作家ならもともとこういった状況を小説に書いているので何か良いアイディアでもあると思ったのか、フジテレビで作家を集めて会議をするという企画を立て、3回にわたり収録し放送ということをしました。

 

それを文字として出版したのがこの本です。

集まったメンバー(リモートを含む)は新井素子沖方丁など、年代もかなり広い人々で、いとうせいこう氏を司会に、さらに大森望氏を顧問としています。

なお、「世界」と銘打つのも誇大広告ではなく、中国から劉慈欣、韓国からキム・チョヨフ氏、アメリカからケン・リュウ氏をビデオ出演やリモートで参加という、豪華な顔ぶれとなっています。

 

議題は、第1回「アフターコロナの世界」第2回「人類は○○で絶滅する」第3回「100年後の世界は○○」というものです。

 

さらに、番組の内容に沿って描かれた森泉岳土、宮崎夏次系、大橋裕之氏らのコミックまで完全収録ということになっています。

 

第1回の収録日、2020年6月6日といえば、コロナウイルスが日本にも侵入し徐々に感染を広げていった頃で、その時にはすでに中国やヨーロッパ、アメリカでは急激に感染者が増加、死者も多くなりパンデミックとなっていました。

 

そこですでに「アフターコロナ」を語ってしまうというのもすごいことですが、まあSF作家というのは将来のことを想像してストーリーを組み立ててしまうのが得意ですから、お手の物でしょう。

 

なお、ちょうどこのテーマで「三体」という小説を書いていたのが、中国の劉慈欣氏であり、彼のビデオメッセージと言うものもこの回に流されています。

 

ただし、最近ではSF界ではパンデミック物というのはゾンビ物になってしまっているということで、あまり参考にはならないようです。

 

なお、いとう氏の発言で、テッド・チャンは「小説ではこんな無能な政治家は描かれない」と言っていたということで、こんな現実の政治家が小説内に登場すると、たとえパンデミックが広がってもその政治家のせいだということになり、小説が全然面白くなくなるそうです。

 

藤井太洋氏の発言で「アフターコロナのセックス」というものは興味深いものでした。

セックスといってもそのものを言うのではなく、子孫を残すという中で遺伝子改変技術によりウイルス感染をしにくくすると言った技術も出てくるのではないか。

そしてそれには高額の費用が掛かるので、できるのは金持ちだけとなる。

そうなると「ウイルス耐性がある人種」というものがその他大勢の人種とは分離して生物学的に別の種になってしまうかもしれないということです。

実際に、HPVウイルスの予防接種では日本ではほとんど接種されていないのに、海外では広く接種されている。

これで日本人はともに子供を作るには不向きと考えられて避けられると、生物種が分かれることもあるのではということです。

 

第3回の「100年後の世界」という話の中では、「監視社会」というものについてかなり厳しいことが話題になっていました。

もうすでに中国ではかなり高度に監視されているということですが、100年もたつとさらに激しいことになるのではないか。

この辺の事情は、この回に実際に上海からリモート参加していた陳湫汎氏の中国の現状からの説明もありました。

陳さんはグーグルやバイドゥというIT企業に勤務した経験もあるということで、それらが実際に個人データをどうしているのかも分かっています。

中国ではすでに現金払いを受け付けないところが多く、そこではスマホ支払いしかできず、それをするとそのデータがすべて取られることになるとか。

今はスマホを通じてのデータ収集ですが、これがあっという間にナノマシンを体内に付けることが強制されるようになり、人体のデータもすべて管理されることになるかもしれません。

それが嫌だと言うと、買い物すらできないということになるでしょう。

 

なお、それが嫌ということでもないのでしょうが、新井素子さんはSNSは一切やっていないそうです。

スマホも持っているけれど通話以外には使わないとか。

「アプリって何?」という段階だそうです。クレジットカードも持っていないとか。

 

SF作家と言う人々は想像力をフルに使っていますので、実際にどこまで現実が追いつくかは分かりませんが、そうならないとも言えない。

怖い将来になりそうです。