爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「航空燃料も脱炭素」って言っても、そもそも飛行機っていうのは一番それが相応しくないのでは。

またまたエネルギーニュースネタですが。

 

全日空日航がそろって「航空燃料の脱炭素化」を進めるというインタビューのニュースが流れていました。

代替航空燃料をSAFと言うそうですが、それへの転換を進めなければ国際的に運行もできなくなるとか。

www.sankei.com

ニュースの出所は違いますが、上の産経新聞によっても、現在の世界のSAF生産量は需要の0.03%とか。

本当に代替できると思っているのでしょうか。

 

しかし、ヨーロッパの諸国では近いうちにSAFを入れない航空機は入国禁止と言う処置をする可能性もあり、日本の航空会社もその調達をしなければ運行できなくなる可能性があるようです。

 

SAFとは何かといえば、どうやら植物油やエタノールなど、植物由来で生産できるもののようです。

放送では、微細藻類からも作れると言った、おなじみの夢物語も紹介されました。

 

航空燃料というものがどれほど使われているのか、政府統計で航空調査と言うものがありました。

航空輸送統計調査統計表 7 第7表 航空運送事業・航空機使用事業月別、油種別、燃料消費量 月次 | 統計表・グラフ表示 | 政府統計の総合窓口

 

最近は運行本数も少なくなっているので少し前の数字を見てみます。

2016年6月の1か月で、ジェット燃料が約81万キロリットルということです。

(国内線や国際線、海外給油等いろいろ含まれているようですが、概数ということで細かくは考えません)

それを年間にして約1000万キロリットルとしましょう。

 

これがどの程度の量か。

ちなみに、自動車燃料の使用量を比較してみました。

これも政府統計です。

file:///C:/Users/TA/AppData/Local/Temp/summary.pdf

 

平成28年度のガソリン消費量(営業車、自家用車計)で、約5100万キロリットルだそうです。

ちょっと驚くほどの数字でした。

なんと国内すべての自動車のガソリン使用量と比較し、さすがにそれよりは少ないものの桁は一緒だったとは。

これほどまでに飛行機というものは燃料を大量に使用しているということでしょう。

 

さて、そういった莫大な量の航空燃料を植物由来の代替燃料で補完できるものか。

 

植物油だけでなく、セルロース由来のエタノールなどや、微細藻類からのものも考えられているようですが、とりあえず植物油の生産量だけを見てみます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jos1956/40/10/40_10_822/_pdf

この油脂関係業界の方のデータによれば、ちょっと古いようですが1989年の数字で、植物油脂原料の生産量が「世界で」約2億トン、そこから生産される油脂量が「世界で」5200万トン、ちょっと単位が違うので直接の比較はできませんが、「日本の」航空燃料だけでも世界中の植物油脂量と大して変わらない量を使用しているようです。

 

「脱炭素化」を謳う時、再生可能エネルギーなどという不効率な技術を持ち出すものとともに、よく見られるのが「植物由来」に頼るという傾向です。

飛行機を飛ばすのにさすがに太陽光発電などを持ち出すわけにも行かないでしょうから、植物由来原料によるなど言い出すのでしょうが、その量がまったく桁外れということを真剣に考えているのでしょうか。

 

冒頭のニュース放送で、航空会社の社長たちが行っていたのが「オールジャパンでの取り組みが必要」という、あまりにも僭越な言葉でした。

おそらく、原料生産から精製、供給に至るまで各業界が取り組まなければできないということでしょうが、何を勝手なことを言うんでしょう。

 

日本では農業用地が放棄されているという事情はありますが、本来はこの地はすべて食料生産に当てられるべきものであり、それ以外に使われる余裕はないはずです。

農耕地にも太陽光発電装置を設置などと言う話も出ていますが、食料自給率を上げなければという時にそれ以外に使うというのはいかがなものか。

 

どうやら、航空業界というものは早々と立ち行かなくなる運命のようです。

コロナ禍で業績が極端に悪化した今が撤退の好機では。