爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史」スティーブン・ジョンソン著

人類の文明がどのように進化してきたか。

そこにはそれが無ければ現代文明が無かった、あるいはかなり違ったものになったような重要な発明と発見があります。

 

そのような6つのもの、「ガラス」「冷たさ」「音」「清潔」「時間」「光」と取り上げそれらがどのように発達してきたかをたどります。

 

なお、これらは「発明されたもの」という捉え方が難しいものもありますが、それが現代文明に与えている重要性は少し考えれば分かってきます。

 

例えば「冷たさ」は少し首をかしげるものかもしれませんが、冷凍という技術がなければ現代の食生活は成り立ちません。

それだけでなく、エアコン無しには住むことが難しい場所にも進出することができるようになったということは、つい忘れがちなことかもしれません。

 

また、「清潔」もそれが普通だと思っている人もいるかもしれませんが、現在でも決して普通とは言えず、かなり悪い衛生環境で住んでいる人類がまだ相当数います。

そして、それは少し前までは先進国とされていた欧米などでも普通のことでした。

 

「ガラス」が現代文明を支えていると言われても、あまり実感はないかもしれません。

しかし、鏡、顕微鏡、望遠鏡、レンズ、グラスファイバーと並べていくと、これなしには現代文明は無かったとも言えるほどの重要性があるということは分かるでしょう。

ガラスがあること自体は古代文明の時代から知られていました。

いつのことか、摂氏540度以上になる何らかの事件があり土壌中の二酸化ケイ素が溶融し冷えて固まってガラスになりました。

これを発見した古代人はその美しさに感激し国王に献上し、それがツタンカーメンの墓の中に残っています。

その後、トルコで発展したガラス工業がコンスタンティノープルの陥落により職人たちがヴェネツィアに逃げ出すことで西欧社会にも伝わることになります。

そこからの発展は多くの人の創意工夫と技術が関与して広がっていきます。

 

「冷たさの価値」というものは、今のように冷蔵庫やエアコンが普及していると誰も疑いませんが、それが無い時代には想像することも難しいものでした。

19世紀初頭、ボストンの実業家のフレデリック・テューダーは近くの湖に冬期は分厚く凍る氷を、熱帯のカリブに持っていけば稼げるのではないかと思いつきます。

180トンの氷を積みボストンから西インド諸島マルティニーク島に向かい、到着した時にはまだかなりの量が残っていたのですが、住民たちにそれを売ろうとしても誰もポカンとした顔で氷を見るだけで、買おうとはしませんでした。

氷の価値と言うものがまったく考えられなかったのでした。

しかし、徐々にそれを知る人々が増えるとフレデリックの商売の真似をする者も続々と出てきて、氷の輸出業と言うものが発展してきます。

 

さらに、氷で物を冷やすということは、アメリカの食品産業にとって大きな意味を持っていました。

シカゴは精肉業で発展しましたが、それには冷却技術が不可欠でした。

それが無い時代には消費地のすぐそばにまで家畜を生きたまま運び、そこで屠殺解体するしかなかったのですが、運送の途中で死亡する家畜がかなりの比率になり、安定した商売ではありませんでした。

それが冷却技術の進歩で大規模に集約することが可能となりました。

シカゴの発展は鉄道の発明とエリー運河の建設のおかげだと言われますが、それ以上に重要だったのが氷による冷却技術だったのです。

 

そうなると問題になったのが、湖の天然氷の枯渇でした。

あっという間に無くなってしまう天然氷に代え、熱力学の応用による人工氷の製造ということが始まり、機器の発展に向かいます。

それがどんどんと広がると、今度は冷凍食品というものの発明と発展にもつながっていきます。

現代の食品工業には不可欠な技術となりました。

 

他の話も読んでいくと、これも現代文明には不可欠なものだと分かっていきます。

様々なものが並行して進展していきようやく今のような文明の形ができてきたと言うことが判りました。