ニセ科学といっても、あの商魂丸出しで科学的な装いで騙そうとする連中のことにはほとんど触れておらず、わずかに水成ガソリン事件やポリウォーターが取り上げられている程度です。
この本の多くは、かつての錬金術や現代の論文捏造など、また迷信というものについてといったことに当てられています。
著者の齋藤さんが、有機化学の研究をずっと続けてこられたという経歴のせいでしょうか。
現代から見るとまったく科学とは相容れないようなものが昔は科学とされていました。
天動説や錬金術と言ったものですが、他にも多くの事例があります。
ただし、天体観測の発達、化学技術の進歩といった方向で後の世の科学の進歩に影響を与えたという一面もありますので、やっていることが間違いだったので意味がなかったというわけではありません。
しかし、近・現代になると様々な目的のために科学を捻じ曲げてしまうことが起きてしまいます。
詐欺に使われたのが上記の水成ガソリン事件ですが、太平洋戦争当時の海軍を水からガソリンが作れると騙したというものです。
他にも金を騙し取るために科学を装うという、いかにもニセ科学という言葉にふさわしいものが多数あります。
そのような目的の一つに、学者としての地位、名声といったものを得るためというものがあり、論文の捏造事件も後を絶たないものです。
STAP細胞事件というのはまだ記憶に新しいものですし、大学の麻酔科医師の捏造論文数新記録の事件というのもありました。
現在の研究者や大学教員の地位獲得のためには優れた論文を数多く発表するということが必須条件となっていますので、少しでも有利になるようにとデータの捏造などが行われます。
論文の数自体が膨大なものですので、なかなか捏造を見抜けないため、明るみに出るのはほんのわずかなもので、隠れたままのものも多いのでしょう。
本書中ほどには、いささか他の部分とは雰囲気の違うものですが、「伝承の知識と迷信」と題して古くから続く伝統技術や、多くの迷信が紹介してあります。
またいつもの「揚げ足取り」ですが、伝統技術の中で石川県の「フグの卵巣の糠漬け」が紹介されています。
ただし、本書には「能登半島地方でつくられるトラフグの卵巣の糠漬け」とされていますが、実は「トラフグ」ではなく「ゴマフグ」です。
他にも新潟県でも作られるという話もありますが、能登地方ではないようです。
金沢に仕事で行っていた時、色々と紹介されているのを見聞きしましたので、おそらく間違いないでしょう。
実際に試してみればよかったのでしょうが、なにしろ産地とは言え非常に高価でしたので。