爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「内田樹の研究室」より「医学生ゼミナールの質疑応答」

内田樹さんが、医学生ゼミナールというところで医学生を対象に講演をしたそうですが、その時に時間が足りなかったので残りの質疑応答はメールでと言うことにしました。

その内容を公表したということです。

blog.tatsuru.com

3つの質問と内田さんの回答が載っていますが、3番目のものが興味深いものでした。

 

Q:過度なグローバリズムによって国民経済が疲弊することで「ネイションへの回帰」が起こるとエマニュエル・トッドが言っていましたが、フランスのルペン率いる国民戦線やトランプなど「反グローバリズム」に親和的な政治勢力は排外主義的な傾向があると思います。どのようにしたら国際協調(あるいは国内の融和)と国民経済(国民を飢えさせない)を両立できるでしょうか。

 

これが質問で、グローバリズムによって国民経済が疲弊する反動で「ネイションへの回帰」が起きると考えられるはずが、反グローバリズム勢力は排外主義的な傾向が強いのではという内容です。

 

それに対しての回答です。

ちょっと長くなるので要約しますが、ここで起きているのは「ナショナリズムの復興」ではなく、より暴力的で前近代的なトライバリズム(tribalism:部族主義)化しているようだという分析です。

ネーションは復活するのではなく分断されています。

人種ばかりでなく、性別や宗教、学歴から階級に至るまで様々な指標で分断しています。

アメリカでもヨーロッパでも日本でも起きています。

日本の自称ナショナリストたちは、「誰が日本人か」の追求に熱心です。

在留外国人はもちろん「非国民」ですが、日本人であっても政府の政策に反対する人々は「反日認定」などということをやって、「在日日本人」とか「二級市民」などと言いたがります。

こういった動きはナショナリズムとは何の関係もありません。

ナショナリズムは近代の国家形成のために取られた幻想のようなものですが、かなり無理はあったもののできるだけ大きな集団を目指すという方向性はありました。

しかし、トライバリズムでは純血を求めるあまりどんどんと異分子を排除しようとしています。

排外主義者はトライバリストだというのが内田さんの考え方ですが、これでは日本一国のまとまりすら不可能にします。

国際協調も、国内統合も、せめて本当のナショナリズムを求めて行かなければならないということです。

 

「自称ナショナリスト」といった連中が大きな顔をし出したのはそれほど昔ではないのでしょうが、これで彼らが実際には「ナショナリズム」とは何の関係も無いことが判りました。

とは言え、私自身もナショナリズムには何の関係もないのですが。