爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「『美しい顔』とはどんな顔か 自然物から人工物まで、美しい形を科学する」牟田淳著

きれいな女性を見ればうっとりと見ほれます。

しかし、どのような人が「きれい」か、それは人によっても違いそうですし、あまりそのことについて科学的な解析がされているとも言えないようです。

 

この本の著者の牟田さんは、理論物理学で理学博士号を取った後、現在は芸術系の学部で学生を指導しているということです。

そこで、「美しいと感じる」ということはどういうことなのか、研究されているということです。

この本では、その研究成果の一部を一般人にも分かるように解説されています。

なお、「美しい顔」という書名になっていますが、話はそこだけに留まらず自然物や橋や鉄道車両といったものの美しさにも及んでいます。

 

最初のプロローグでは、「美しい」という言葉の意味に戻って考えています。

広辞苑によれば、「美しい」という言葉には次のような意味があります。

1愛らしい、可愛い、いとしい

2形・色・声などが快く、このましい。きれいである。

3いさぎよい、さっぱりとして余計なものがない。

 

「かわいい」は美しいのか、それは個人の感覚としても様々でしょうが、人種や文化によっても違いそうです。

「きれい」は漢字では「綺麗」と書きますが、これの言葉の意味は「綺(あや)のように麗しい」、「濁り・汚れをとどめないさま」「整っているさま」とあります。

濁っていないこと、整っていることがきれいであるという感覚と関わるのでしょうか。

 

第1章は「黄金比」から話が始まります。

黄金比というのは、「1:1.62」のことで、西洋文化ではこれを美しいと感じることが多いということになっています。

しかし様々な長さの四角形を示し、「どれが美しいと感じるか」という質問をするというアンケート調査を実施したところ、西洋人では黄金比の四角形が1番であるのに対し、日本人では正方形の方が支持を集めました。

これは20世紀初頭からの調査結果が残っているのですが、欧米人の黄金比好きというのは変わらないようです。

また、日本人では正方形好きというのが特徴的ですが、その次には白銀比(1:1.41)が人気を集めています。

このような四角形の長さによって受ける印象というものも聞いています。

それによれば「正方形は子供っぽい」「細長い形は大人っぽい」という印象を持つ人が多いということです。

 

第2章では、この傾向が人間の顔にも当てはまるかどうか、調査した結果を披露しています。

2012年に、当時活躍していた芸能人の顔写真を示し、その美しさの印象と顔の形の関係を聞くという調査を1000人程度の男女に聞くというアンケートです。

実はそこに選択した芸能人は、顔のタイプによってすでにグループ分けされていました。

正方形タイプ(篠田麻里子、西山美紀、きゃりーぱみゅぱみゅ益若つばさ宮崎あおい前田敦子)、正方形・白銀比タイプ(押切もえ蛯原友里)、白銀比タイプ(山田優北川景子板野友美)、黄金比タイプ(大塚寧々、蒼井優仲間由紀恵黒木メイサ

ただし、女性の場合は前髪をたらすかどうかで顔の印象が変わりますが、それも特徴に含むこととしています。

すると、「美しいと感じる」のは黄金比タイプ、白銀比タイプに多いということが分かりました。

 

ただし、同じメンバーの写真を使って「大人っぽいか子供っぽいか」という質問をすると、黄金比タイプが大人っぽく、正方形タイプが子供っぽく感じるという結果になります。

だからと言って、「子どもっぽいから可愛いと感じるか」というとそうでもなく、相反する結果も出てくるようです。

 

なお、実際の人間ではなくマンガやアニメのキャラクターは圧倒的に正方形に近いものが多く、子供っぽくて可愛いということを目指して作られていることが分かります。

 

パート2以降では、自然物や人工物でどういうものを「美しい」と感じるかを実例を示して説明しています。

シンメトリーや連続模様というものが美しさを感じさせるということ、機能的であることが美しさをイメージさせるという鉄道車両の流線形や橋の例などが示されています。

理学系らしく非常にすっきりとした説明で分かりやすくなっていますが、面白さはやはり「美しい顔」の方でした。

 

なお、「美しい顔の男性」という調査もやっているようですが、これには他の要素がかなり多く影響を与えるようで、ここでは説明されませんでした。