著者の神野さんの本は前に一冊読みました。
sohujojo.hatenablog.comそこでは「語り口は分かりやすくポイントを強調する」という感想を書いていますが、この本でもその印象は同様です。
ただし、ここでは「日本史だけを見ていては分からないことが世界全体を考えると理解できる」という趣旨で書かれていますので、必ずしも「分かりやすい」だけが求められているのではないのでしょう。
まえがきに書かれているのは、「ピレンヌ命題」というあまり聞いたことのない話でした。
20世紀初頭のベルギーの歴史家、アンリ・ピレンヌが「ヨーロッパ社会が古代から中世に移行したのはイスラーム世界の興隆と関係がある」と論じたのですが、これはそれまでのヨーロッパ史学会を論争の渦に巻き込みました。
ヨーロッパがその外の社会の影響を受けるなどということが考えられていなかったため、論議の是非から問題となったのです。
しかし、実際には世界の動きはどんなに閉鎖的に見える社会でも相互の影響というものが大きいようです。
本書で取り上げられている日本史においての事件などは、これまでは日本の中だけの範囲で考えられがちのものでした。
しかし、「仏教公伝には項羽と劉邦の戦いが関係ある」とか、「戦国の動乱は世界的な小氷期の影響だ」とか、「加藤清正、大谷吉継が早く死んだのはコロンブスのせいだ」という、文章だけを見ればなんのこっちゃと思えるものですが、読んでみると一理あるというものです。
なお、加藤清正、大谷吉継の死因はハンセン病という説もありますが、ここでは梅毒という説に従っています。
コロンブスが持ち帰った梅毒によって彼らも若死にしたということです。
まあ「世界史」を考えることで「日本史」の理解も進むということでしょうが、関連があるのは分かりますが、どうでしょうか。