爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「わが愛の税務署」筒井康隆著

筒井康隆自選短編集として2003年に出版されたものですが、収められている作品は60年代後半から70年代にかけて発表されたものです。

 

発表当時に勢力の強かった組織に対しての風刺という意味が明らかで、それは多少その名称が変えられてはいますが、誰でもそれが何を指しているか分かると言った程度の変更にとどめられています。

 

創禍学会とBL教団の対抗を描いた「旗色不鮮明」

某公共放送を題材とした「公共伏魔殿」

税務署はそのまま「わが愛の税務署」

など、その圧力的な性質をそのまま描いているので、何を風刺しているのかもよく分かるといったものになっています。

 

まあおそらく、発表当時は物議をかもしたものでしょう。

 

それからもう50年以上経っているわけですが、ここに取り上げられている組織は消えたものも無く、そのまま存在し続けています。

筒井さんの風刺も力足らず?だったのか、実際はそこまでではなかったのか。

 

まあ、おそらく筒井さんの風刺もさほど効果も無く、それら組織はビクともしなかったということなのでしょう。

 

組織風刺と言うことではないのですが、カミュの「ペスト」を模したのが明らかな(筒井さんも作品中ではっきりと書いています)「コレラ」は、しばらくはその状況が夢物語のようであったのが、新型コロナウイルス感染拡大の現在ではかえってちょうどそのままリアルな状況描写に思えるほどです。

世の中、何も新しいというものは無いのかもと思わせるようです。

なお、「コレラ」ではその感染は死者数百万を出した後、自然に収まりました。

新型コロナはそうなるかどうか、まだ小説を越える状況にはなるかどうか分からないようです。