私もサラリーマン時代にはほとんど税金について考えることもなく、退職して確定申告をするようになって初めて知ったことがたくさんあります。
とてもエラそうなことを言える筋合いではないのですが、本書最後に「その国の税制こそ、その国の主権者の自律度を測るバロメータなのだ」と書かれていると、その通りと思ってしまい、この無茶苦茶とも言える税制で文句も言わない日本国民にため息をつかざるを得ません。
この本の著者の三木さんは税法が専門の法学者で、青山学院大学学長ということですが、政府税調専門家委員会にも委員として加わった経験をお持ちです。
日本の税金ということで、大きく分類して、所得税、法人税、消費税、相続税、間接税等、地方税、国際課税と税金の全容を明らかにしていきます。
それにしても、どの税金も何と不合理で不公正であることか。
それを問題視する国民もほとんど無く、政府や官僚の思いのままにやられています。
まさに「国民の程度」を示しているのでしょう。
所得税の制度として、サラリーマンと事業者ではまったく異なることは明らかです。
よく言われているように「取りやすいところから取る」という原則がきちんと守られています。
サラリーマンでは必要経費というものが認められていない代わりに各種控除が設けられているということになっています。
多くの人的控除(配偶者、扶養者等)が設けられていますが、まず考えなければならないのが「基礎控除」です。
これは憲法25条で保障されている「生存権」の反映だということです。
この権利は同時に「一生懸命働いて健康で文化的な最低限度の生活が可能な所得を得た場合に、それには課税されない」という権利をも保障しているということです。
これが本来の課税最低限ですが、それが48万円ですか。
基礎控除の低さというものは国際的に見てもかなりひどいもののようです。
所得控除を引いたあとの所得に税金がかかるわけですが、減税のために控除額を増すという方策があります。
しかし所得格差がある場合、高所得者に有利か低所得者に有利かということが格差是正にも反映されていきます。
控除を増すということは、結局は高所得者にとって有利になります。
このため、所得控除を増額するのではなく、手当に回す方が低所得者には有利となります。
これを実現する方法として「給付付き税額控除」という制度があるそうです。
もともと税額負担が少ない人には、控除がそれに満たなかった場合は手当給付という形で還元するというもので、海外でも多くの国で採用されているそうです。
日本はまったくその話もありません。
消費税が導入、増額された時には、「高齢化社会のための税制だ」といったことが強調されました。
これを「消費税を福祉のために使うからだ」と勘違いする人が多かったのですが、実際は本当の意味は「所得税だけに頼っていると勤労世代が減ったら税金が減るので、高齢者にも一定の負担を求めるため」だということだったそうです。
グローバル化が進み大企業や富裕者は国の境を越えて移動するようになりました。
しかし各国の税制はそれに対する変化が不十分です。
そのため、タックスヘイブンとやらに逃れてしまい捕捉されないようにするということが常態化してしまいました。
各国が連携して国際機関を通して課税し徴収するシステムを作る必要があります。
人類の次のステージが形成できるかどうか、ここにかかっているとも言えます。
最初に述べたように、日本の税法には数々の不合理な問題点があるのですが、その是正は進みません。
まず、議会の議員や政党の税法への理解が低い段階にあるということです。
増税・減税ということだけは言いますが、それ以上の具体的問題は理解できません。
そのため、ほぼ旧大蔵省・財務省出身議員と官僚たちによって牛耳られてしまいます。
議員だけでなく、マスコミ、そして国民も税法についての意識を高め議論していくしかないのでしょう。