現在でも世界で起きる戦争や紛争の多くに宗教というものが関わっています。
歴史的にはさらに多くの例が見られるでしょう。
本書は「宗教学」について書かれているわけではなく、いわば「宗教地政学」とでも言うべき内容になっています。
本書序文には「宗教勢力の攻防が歴史の本源」とまで書かれています。
それが本質なのかもしれません。
現在では宗教の争いも世界的になっていますが、歴史的にはブロックごとに分かれた抗争を繰り返しているということで、本書記述も別れています。
儒教を中心とした中国と、周辺の東アジア各国。
ヒンドゥー教のインドといろいろな宗教の東南アジア。
カトリックのヨーロッパ中部と、プロテスタント、ギリシア、ロシア正教会。
東西交易路の中心に生まれたイスラム教と周辺各国。
たとえば、最初の儒教中国と周辺国でも、従属地域として朝鮮、対抗地域として神道の日本、および混合宗教のベトナム、対立地域のチベット仏教、途絶した雲南仏教、分離した台湾道教というように、特徴的なポイントを示して言い表すといった形で、分かり易くなるように示しています。
まあ、そう簡単に類型化できるかどうか、難しい点もあるかもしれませんが、そこは他書にゆずって、分かり易さ優先というところでしょうか。
なお、インド周辺や東南アジアの宗教事情というものは私もよく分かっていなかったところであり、分かり易く説明されていることでようやく呑み込めたということもありました。
まず、ヒンドゥー教以外のインド生まれの宗教というのは、仏教の他にもジャイナ教、シク教などがありますが、仏教が誕生直後に勢力を一時伸ばした以外はずっと小勢力であったようです。
東南アジアでは、仏教、ヒンドゥー教、イスラム教が複雑に混じり合っていますが、これも歴史的な勢力間の抗争に合わせるように競い合っていたようです。
インドにはムガル帝国などイスラム教の征服王朝がありましたが、国民はほとんどヒンドゥー教のままでした。
そしてインド独立の際にイスラム教徒が分離したのがパキスタンとバングラディシュでした。
インドネシアなどに多いイスラム教徒はそれとは別にイスラム商人の影響でイスラム教化したことによるようです。
宗教はこれからも重要な問題であり続けるようです。