爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「縮小都市の挑戦」矢作弘著

「縮小都市」すなわち繁栄していた町が衰退し徐々に人口も減少、縮小していくとしか言いようがない都市です。

日本ばかりでなく世界各国でも問題となっているようです。

 

この本では、その典型的な例としてアメリカのデトロイト、イタリアのトリノを取り上げています。

どちらもかつては自動車生産の中心地として繁栄していました。

しかし、日本などの自動車生産が増えてそれに翳りが見え、さらに石油危機によって自動車全体の成長も止まり、都市は徐々にさびれていきます。

 

デトロイトの場合は人種差別の問題とも連動し、市の中心部は黒人を中心とした貧困者ばかりが集まり中産階級以上の人々は郊外に逃れます。

これをホワイトフライト(White flight)と言いますが、そのうちに黒人でも中産階級以上の人々も脱出します。これはブラックフライト(Black flight)だそうです。

その結果、市街地はスラム化し犯罪の危険性が強まり、さらに脱出する人々が増えました。

デトロイトの場合も郊外の別の都市群に高額所得者が逃れたためにデトロイト市の租税収入は激減、市の業務もまともに遂行できなくなり、都市として破産するということになってしまいました。

市の職員に対する高給や、元職員への高額年金のせいだと批判されることもありましたが、実際にはそれよりも構造的な問題の方がはるかに大きかったようです。

 

トリノは自動車メーカーフィアットが本拠地としたため、町全体がトリノの城下町のようになってしまいました。

フィアットが栄えている間はそれに伴ってトリノも繁栄しましたが石油危機以降はどんどん衰退し町全体がさびれていきました。

ここもフィアット全盛時には特にイタリア南部からの出稼ぎ労働者が多く、人種の違いというものは無かったものの地域間の軋轢が反映し移民問題となっていました。

フィアット衰退でそのような移民も去りましたが、そのまま空洞化してしまいます。

 

デトロイトトリノも、まだ成果が出ているとは言えないものの新たな創造の芽がでてきています。

デトロイトでは中心部はまだ治安は悪いものの、その中で様々な事業を起こそうという人々が集まっています。

トリノフィアット以前にもフランスとイタリアを結ぶという条件から様々な創造活動が多かったのですが、それを復活させようという動きが強まっています。

都市中心部には多くの廃墟になりかけたスペースが多いために、そういった施設を格安で使えるという利点もあるのでしょう。

 

それでは日本ではどうでしょうか。

社会学者大野晃が、「限界集落」と山間地などの過疎地域を表現しましたが、今では地方都市全体が「限界都市」と言わざるを得ない状況です。

限界自治体」は政府の誘導で平成の大合併で消滅させられました。

しかし、それを吸収した自治体も大差ない状況です。

地方の人口がどんどんと減っている、それも若年層がひどく減り高齢者のみが残っている状態では、今後さらに衰退していくのは避けられない状況です。

人口が減り続ける中では、せめて地方都市でも中心部に集約して効率化する必要があるのですが、地方に出店を続ける大規模商業施設は、広い郊外に立地するために旧中心街の商店街を壊滅させるという事態が各地で続いています。

これを続けていけば地方都市でも人口密度の高かった中心部で商店が無くなり、「買い物難民」が続出します。

しかもそういった大型商業施設は、販売する商品もその地域のものではなく別の地方から仕入れるという行動を取るため、地域活性化もできません。

さらに、いったん出店しても売り上げが上がらなければ平気で撤退と言うことをするため、その後には何も残らないということになります。

地方都市でも自治体が分かれていると利害が異なるということも起きがちですが、都市圏で合同して対処をするということが必要です。

 

日本全体が東京集中に向かっている中で、どのように地方再生を果たすのか、難しい課題でしょう。

 

縮小都市の挑戦 (岩波新書)

縮小都市の挑戦 (岩波新書)

  • 作者:矢作 弘
  • 発売日: 2014/11/21
  • メディア: 新書