爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「東京大学のアルバート・アイラ― 東大ジャズ講義録・歴史編」菊地成孔・大谷能生著

ジャズミュージシャンの菊地さんは、2004年度の1年間、東京大学教養学部で非常勤講師としてゼミを持ちました。

この本はその前期の部分の10回の講義をそのまま記載したものです。

まあ、多少は編集はされているでしょうが、ほとんど話したままを文章にしたかのように書かれています。

 

講義内容は「ジャズの歴史」です。

第一回講義の表題がその概要を示しています。

十二音平均律→バークリー・メソッド→MIDIを経由する近・現代商業音楽史

 

十二音平均律とは西欧音楽の基本ですが、18世紀ころには一般的に使われるようになりました。

バッハの「平均律クラヴィア曲集」以降、ヨーロッパで爆発的に広がります。

現代まで、ヨーロッパの近代音楽はこれに則って作られています。

 

バークリー・メソッドになると、それほど知られていないでしょう。

ボストンにあるバークリー音楽院という学校で教えられた、現代商業音楽を作り出すためのメソッドを言います。

それまでの西洋での様々な音楽を和声や旋律のバリエーションで記号化・数値化し手っ取り早く教えるというものでした。

ジャズが爆発的に発展した時代もこの理論をうまく利用したと言えます。

 

MIDIになると、現代の話に近くなります。

MIDIはMusical Instrument Digital Interface の略ですが、いわゆる「打ち込み音楽」およびその規格のことです。

現在ではポピュラー音楽の世界では当たり前のものになっていますが、1982年にこの規格が発表され、翌年ヤマハからMIDI規格のシンセサイザーDX-7が発売された時には大きな騒ぎとなりました。

 

このようなあらすじに沿って、20世紀初頭から1980年代までのジャズを中心とした音楽の変遷を、豊富な音源を聞きながら進めていくことになります。

 

なお、これらの音源はYouTubeで「東京大学アルバートアイラ―」で検索すると聞けます。(一部著作権で聞けないものあり)

まったく便利な世の中です。

 

エルビスプレスリーの音楽についても触れられており、その曲の演奏はスタジオミュージシャンが担当したそうですが、リズムがまったく理解できずもたもたしていたと書かれており、それもすぐに音源で確認することができました。

同時代のジャズミュージシャンのリズムの理解度とは大差ということも分かります。

 

ジャズやポピュラー音楽全体について、非常に理解しやすくなるものだと感じました。

私も高校生くらいから好きになって色々とジャズを聴いてきましたが、こういった基礎知識があればあんなに無駄な努力をしなくて済んだかもと思ってしまいます。

まあ、無駄もまた楽しかったものかもしれませんが。