その後の政権に比べれば、まだマシとも見える小泉純一郎政権でしたが、そこで行われた構造改革・規制緩和という政策は社会のあちこちに軋みをもたらしました。
特に、建築関係では耐震強度偽装事件などが起こり、建物の安全性をないがしろにしても利益を求めるということが普通になっているようです。
そういった社会の動揺について、建築ジャーナリストという中崎さんが2007年に出版した本です。
建築をめぐる社会についてということですが、様々な面から見たエッセイも含みます。
日本では多くの建築家は住宅建設にしか関われません。
しかし、この頃には(今でも?)狭小住宅という極めて狭い宅地に無理して建てるようなものが流行し、建築家の腕はそこでなんとか広く使える住宅を設計するだけになってしまったようです。
狭小住宅ブームは2000年頃に始まったようですが、その体験談をまとめた本やムックなどが多数出版され、ネット上でもその情報が溢れるようになっていました。
他に仕事のない20代、30代の建築家と称している者たちが請け負っているとのことですが、中には40代でそこそこ実績もある建築家も携わっていました。
このような建築はいくらやっても将来はありません。
建築家のする仕事ではないと断罪しています。
小泉内閣で推進された構造改革、規制緩和で数々の法律が施行されました。
これらの施策で日本は地方まで均質化が進んでしまうようです。
構造改革特区も定められその地域だけは特色ある開発もできるとのことですが、どこも同じような開発計画でほとんど独自性もなくなりました。
東京では大規模再開発が進みました。
しかし、日本ではこういった大規模開発には建築家という人々は関われないようにできています。
この設計は大手建築事務所やゼネコンの設計部が行い、デザインは欧米の建築家に依頼するというのが普通です。
六本木ヒルズ、東京ミッドタウンなどもこのパターンで行われ、日本人の建築家の出る幕はありませんでした。
日本人建築家のデザインや施工レベルは高いのですが、デベロッパーたちの意識はアメリカの模倣をすることしか向いていないようです。
地方の活性化を目指す「地域再生マネージャー事業」というもので、著者は地方自治体からマネージャー候補として何度も企画提案を求められたそうです。
しかしその対応などにあたる自治体職員の程度は低く、公務員意識丸出しで形式主義、前例主義に陥り、自己防衛と内向き姿勢だけが目立つものであったということです。
どこも地域の特産物でヒット商品を作るとか、観光事業の推進といったものを目指すのですが、こういった事業をうまく進めるには「マネージメントよりプロデュースが大切」だということです。
しかし、地方公務員などは「マネージメント」ばかりに向いており「プロデュース」しようという気構えが全く見られないそうです。
こう言った指摘、現在でもそのまま通用しそうです。