メソポタミア文明は古代文明の中でも最も古いと言われていますが、その割に様々な遺跡や遺物に恵まれているのでしょう。
そういった文明の概観を豊富な写真と図版によって分かり易く見せている本です。
特に、メソポタミア文明では植物が乏しかったためか、文字記録も粘土板にされているという特色があり、それが気象条件とも相俟って数多く発掘されたという幸運があり、研究も進み数多くの知見が得られました。
そういった粘土板などの写真も本書には数多く掲載されており、その雰囲気だけ見ても思いを馳せることができます。
1920年代になって、イラク南部のアル・ウバイドで彩文土器が発見され、これがウルク期の文明に先んじるものとしてウバイド文明と呼ばれるようになりました。
これが紀元前5000年前からのことです。
紀元前4000年ほどからはウルクを中心とするシュメール文明が栄えます。
この時期にはすでに楔形文字を使った粘土板の記録が残されています。
前2000年紀初頭には、すでにそれまでの王朝の王を記載した「シュメール王朝表」という文書が残されています。
すでに歴史の認識があったということなのでしょうが、数々の王朝表を見ていくと特定の王を除くような操作や恣意的な記述をした跡も見られるそうで、「歴史の捏造」はすでに始まっていたようです。
乾燥地帯であるために、遺跡の劣化も進みにくく幸運な状況であったはずですが、特に近年は政治的な不安定のために遺跡や遺物が破壊されたり盗難にあったりという被害が多発しているようです。
本書冒頭に掲載された「ウルクの大杯」は紀元前3000年頃のジェムデト・ナスル期の貴重な出土品でした。
バグダッドのイラク博物館に保管されていたのですが、イラク戦争の際に略奪されたそうです。
幸運にもその後発見され修復されたのですが、他にも多くの至宝が失われています。
人類の最も古い記念品とも言えるものがあの不安定な地域にあるということは恐ろしいことでしょう。