電車の走る線路というものは、鉄道の安全に深く関わっており、そこから起因する事故も数多いものです。
著者のお三方は、現在は技術士などとして鉄道の安全について活動をされていますが、かつては鉄道会社で技術の最前線で活躍されていた方々です。
事故の対応や、事故を未然に防ぐための設備の設計施工など実際に担当されていたようです。
一番最初の章の題となっている言葉がこの問題の難しさを端的に表しています。
「人は間違えるもの、設備は壊れるもの」
まさにこれが真実であり、それを理解しながらできるだけの対応を取って少しでも事故発生を減らしていくというのが目標なのでしょう。
人にまつわる安全という問題では、色々な手法で現場作業者の意識を高め、危険から身を守るという思想が感じられます。
「ヒヤリハット」や「危険予知」といった活動は重要なものです。
鉄道での作業者の行動として、「指差呼称」はもはや一般でも知る人が多いものでしょう。
これも、実際にそれで危険を感じ取るというより、その行動自体が安全意識を高めるという作用の方が意味が大きいようです。
また一人作業の時にも行うという意識が大切ですが、複数作業の時にそれで全員に安全という方向性を示すということも重要です。
設備の設計も、これまで発生した無数の事故からの知見で改良されてきたものが多くなっています。
こ線橋などの下部で電線を支えるための設備は橋の内側に設置するのが普通でしたが、雨が直接当たらなくなるため、汚れが落ちづらいということになりました。
これが絶縁性能を低下させ雷に対する弱点箇所となりました。
これを防止するため、「橋の内側には支持個所を設けない」という設計変更を行い徹底してきたそうです。
他にも、現場ならではの体験から得られた貴重な話が数多く掲載されています。
まあ、これらの知識を活かせる環境にある読者は少ないでしょうが、何かを感じ取れるかもしれません。
なお、専門用語が多数出てくるのは仕方がないのでしょうが、この分野ではかつての旧漢字時代からそのまま使われている用語が多く、常用漢字ではないものはひらがなとしてそのまま使われているために、非常に見にくいものとなっています。
饋電方式が「き電方式」、跨線橋が「こ線橋」、吊架線が「ちょう架線」と表記されています。
漢字が使えないなら用語自体を変えるということが必要なのではないかと感じます。