爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「古墳のはじまりを考える」金関恕、森岡秀人、森下章司、山尾幸久、吉井秀夫著

この本は2003年に大阪府文化財センターが開催した「古墳のはじまりを考える」という市民向けの講座の内容をもとに作られました。

本書著者として挙げられている5人の方々が一回ごとに講師を務めるという形で開かれました。

講座開催時には活字化を考えていなかった講師もいたということで、書籍化に向けて改めて執筆をされた部分もあるようで、講座そのものではないようです。

 

最初の山尾さんはヤマト王権というものが成立していった過程について説明されているため、古墳とは直接関係はないことが多いようです。

 

次の森下さんは考古学的研究の観点から古墳の出現について議論されており、このあたりが本書の中心になるかと思います。

 

吉井さんは朝鮮半島の墳墓研究が専門であるようで、日本の古墳との関係も意識しながらの半島の墓制、そして王墓の出現といった話題を紹介しています。

 

森岡さんは考古学研究の基本とも言える年代決定の方法について、年代論の移り変わりから研究手法も説明しています。

古墳の研究には重要な問題でしょう。

 

最後に金関さんが、「王権の成立と王墓の築造」と言う題で日本だけでなく世界各国の王墓の築造が見られる文明について解説です。

 

複数の講師による講座であるということで、テーマは一つあるものの内容はかなり広がりがあり、基礎的な知識を身に着けるには良いかもしれませんが、その先を深く知りたければ各部分の著者の別著作を探す必要があるかもしれません。

 

なお、古墳自体よりは古代の国々の消長に興味がある私にとっては、最初の山尾さんの部分が一番参考になりました。

三国志の記述があるために、どうしても邪馬台国が興味の対象となりやすいのでしょうが、他の史書なども参考にすると2世紀末までとそれ以降の倭人の歴史には大きな断絶があるのは間違いないことです。

それまでは九州にあった倭人の国と、それ以降ヤマトを中心に勢力を全国に伸ばした国は連続したものとは見られないようです。

その間に何があったのか、どうやら九州の国が東遷したとは見づらいようで、別にヤマトに成立した国が急激に力を付けて日本を代表する勢力に成長したものと言うことです。

 

その後、全国一斉に前方後円墳が作られるようになったというのも興味深い現象ですが、細かく見ればやはり地域差はあるようです。

顧みれば実はわずかな期間でしかない古墳時代ですが、そこには何やら大きなものが隠れているのかもしれません。