爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「声優 声の職人」森川智之著

声優と言えば昔ならラジオドラマ、そして洋画の吹き替えでしたが、今ではアニメの大人気とともに声優にも人気が集まってくるようになりました。

 

そんな声優について、トム・クルーズの吹き替えをずっと担当し、さらにアニメやゲームキャラクターの声も数多くこなし、声優の事務所も設立して後進を育て支えるという幅広い活動をしている森川さんが、様々な面から見ていきます。

 

映画やアニメの場合はまだ演じるという面が強いのですが、声優には他にもナレーションなどの仕事も入ってきます。

映画などの脚本もそうですが、ナレーションの台本も一度見てすぐにすべてを理解し表現できなければなりません。

そういった点を声優志願の若い人たちに指摘すると驚くそうですが、今では見た目だけで憧れて声優を目指す人もいるようで、声を使って話すプロであるという自覚がなければやっていけないようです。

 

森川さんは50歳を少し越えたところで、声優を目指したのは1980年代だったのですが、そのころはまだ声優という職業というものがそれほど人気があるわけでもなく、何かやらなきゃと専門学校のパンフレットを見たら志望のアナウンサー講座の隣に声優講座も書いてあったという程度のものだったようです。

そのためか、体育会系で付き合いも良かった彼は、すぐに業界の人とも仲良くなりその縁で仕事も廻してくれるといった、恵まれた時代だったとも言えます。

そういった雰囲気でアニメの仕事などをこなしていき10年ほど経った時に、キューブリックの「アイズ ワイド シャット」でトム・クルーズの吹き替えを担当することになりました。

この映画では非常に難しい要求にも応えつつ、高度なセリフを話す努力をしていき、原作プロデューサーからも日本語版がもっとも出来が良いと褒められたとか。

 

 

最近では、声優も人気商売となり表舞台に出る機会も増えてきました。

森川さん自身もそういった場に立つこともあり、そのこと自体を問題とは言いませんが、それでもやはり声優は職人的な裏方の仕事であるという意識は大切だということです。

 

また、映画の興行的な戦略で、人気俳優に声優をやらせるという場合が目につきます。

これを批判する人も多いのですが、森川さんはさすがに立場上これを否定することはできなかったようです。

一応「声優の技術もあるが、本質は変わらないので技術を習得しさえすれば俳優が声の演技をすることは理論的に不可能ではありません」としています。

まあ、ほとんど無理なのでしょう。

それでも萩原聖人さんは声優としての実力もキャリアもありナレーターとしても活躍できると実例を挙げています。

声優に向かないのは「滑舌が悪い人、音に対する意識が低い人」だそうです。

 

声優になりたいという若い人に伝えたいのは次のことです。

必ず日本語力を付けること。

学生であれば国語の成績でトップを取ること。

 

声優の演技の土台となる台本はすべて文字で書いてあります。

書いてあるものをスラスラと読み、内容を正しく理解できなければ表現もできません。

アニメやゲームばかりに目が向いていてこういったことを意識できない人が多いようです。

 

ちょっとチャラチャラしたイメージになってきたような声優の世界ですが、やはりその底には厳しい技術が求められるようです。

 

声優 声の職人 (岩波新書)

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