「論語読みの論語知らず」というのは普通に使われる言い回しですが、それを逆転させて「俺は論語なんて知らないよ」と言いながらそれについて色々と書いてしまおうという手法を使ったエッセイです。
小説家の阿川弘之さんが、1977年に出版したもので、著者57歳というところでしょうか。
体裁は、論語の文章を最初に取り上げ、それに着かず離れずの内容の文章を書いていくといったものです。
一応、自分の中での決め事として「論語の文章の内容を解説することはしない」というものをほとんどの場合守っているようです。
友人や周囲の人々も登場しますが、ほとんどがニックネームとなっています。
もともと小説家の文壇というものも詳しくなく、さらに執筆当時から40年以上も経っていますので、そこに出てくる人々が誰かと言うことはほとんど分かりません。
ただし、「町田の大家」として出てくるのが遠藤周作であるということはわかりました。
というのも、大家さんの兄さんが亡くなったということが書かれており、その兄さんの名前が遠藤正介、葬式を司った神父さんがそそっかしい人で「天に召されました遠藤周作」と言ってしまったというエピソードで分かりました。
なお、「豚児豚女」として登場する子供さんの中で、豚女は阿川佐和子さんであるはずですが、本の中ではまだ学生です。
内容については一つだけ。
秦伯編に「人の将に死なんとするやその言や良し」という言葉があります。
人の最後の言葉は良いということですが、そうでもない場合も多いようです。
著者は海軍将校となった経験がありますが、それほど危ないところに行くことはなかったようです。
軍医の知人に聞いた話として書かれているのは、「天皇陛下万歳」といって死ぬ将兵はまずなかったということです。
時々、血まみれで「天皇陛下万歳」と叫んでいる人がいる場合もあったのですが、軍医の眼から見れば「あれは、まだ大丈夫」ということだったとか。
著者の友人の叔父で、年をとっても麻雀が大好き、対戦中に緑発をつもり「あ、大三元」と言ったままぱたっと倒れてそれっきりと言う人がいたそうです。
「これなぞ、凡人の最後として範とするに足る」ということです。