2020年4月に改正民法が施行されましたが、この本はそれが法制審議会で検討されていた2011年に民法学者の東京大学法学部教授の大村さんが、改正についてだけでなく民法というものの歴史や世界的な傾向など広く解説をしたものです。
民法とは法律の体系のなかでも、財産や契約、家族や相続と言ったことを規定する分野です。
5編に分けて考えられており、総則・物権・債権・親族・相続からなっています。
民法改正では特に「成年年齢の引き下げ」という問題が興味をひきましたが、そればかりでなく特に債権関係で大きな変更がなされています。
ただし、そういった面での変更についてはほとんど一般の人々の関心は及ばず、せいぜい「自分の仕事に影響がなければよい」程度の認識が多いようです。
民法典というものが最初にできたのは1804年フランスにおいてのことでした。
そしてドイツでは1896年に制定されています。
しかし、これらの法典も実際は「民法改正」であると言えます。
というのは、それらの法典ができる前から「ルールとしての民法」は存在しており、それを明文化したものだったからです。
日本では明治維新以降ヨーロッパの民法典を参考に明治民法を作ってきたのですが、それ以前に民法のようなものがなかったわけではなく、ルールは存在していました。
それに手を加えできたのが1890年の民法典(旧民法)、さらにそれを改正した1898年の民法典(明治民法)でした。
さらに1947年に大改正がなされ公布されたのが新民法(昭和民法)です。
民法の改正は社会の大きな変化に対応して行われます。
昭和の大改正は敗戦により民主制度になったという大きな変化に従って行われました。
しかし、その後も社会変化は継続して起きていましたが、民法はそれに応じて変えられていたわけではありません。
それが今回の大改正と言うべき改正が必要となった理由かもしれません。
(なお、本書中には「これが平成の大改正になるか」とありますが、「平成の」ではなくなったとは民法権威の著者も気が付かなかったでしょう)
意思表示、物権と債権、占有などと言う民法上の概念はすでにここから由来します。
ローマ帝国の滅亡で、ローマ法は行われなくなるのですが、それが発見されたのが12世紀のボローニャ大学をはじめとするローマ法研究からの中世ローマ法学でした。
これがヨーロッパで行われた慣習法に影響を与えました。
そして、フランス革命後にナポレオンによってフランス全土の法の統一が行われたのが、1804年のナポレオン法典でした。
これをもって近代法典の誕生とします。
東アジアでは日本が早くからヨーロッパの影響を受けて民法典整備が進み、他の国々もその影響を受けながら制定されて行きました。
その後、日本の影響を排除しながら独自の法制を整備していくことになります。
世界各国で、民法は徐々に改正されて行きます。
それは、各国それぞれで経済の変化、家族の変化というものが起きているからです。
最初の民法典には「法人」という規定はありませんでした。
しかしそれに続くドイツ民法典でははやくも「法人規定」を備えています。
さらに「契約の仕組み」というものも時代をおって複雑化していくため、それに対応して法律も変化しました。
責任の強化、担保の強化も顕著に見られます。
家族が変わっていくという社会変化も、ヨーロッパでは1960年代、アジアでは1990年代から急激に進みました。
民法もそれに伴って変わらざるを得ませんでした。
19世紀の民法典では「人」は抽象的な概念でした。
しかし、19世紀末からは「労働者」というものが問題になります。
さらに現在では「消費者」が問題となるため、最近の改正では「消費者」の項目が強化されています。
日本での民法改正は、最後は国会で決定されるのですが、それまでは「法制審議会」で検討されます。
原案は管轄する省庁が作成することになります。
それに対し、法律を専門とする学者グループからの提案もなされます。
また、弁護士会や各種関係団体も意見を述べます。
しかし、どうも一般からの関心は薄く民法改正に対して積極的ではありません。
自己の利益が損なわれそうだという場合にのみ議論が高まりますが、そうでなければ誰も何も言わないようです。
今回の改正では、「合意ではなく契約を」といった契約重視のものになるそうです。
といってもすでに施行されいますので、どうなったかはしっかり見れば分かるはずですが。
面倒なことですが、きちんと皆が考えるべきことなのでしょう。