爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「錆と人間 ビール缶から戦艦まで」ジョナサン・ウィルドマン著

人類は鉄を始めとする金属類を使いこなすことで文明を築いてきました。

しかし、その金属はすぐ「錆びる」

これをどうにかしないことには、不経済ということもありますが、直接に生命に関わることにもなります。

 

この本では、そういった錆をめぐる話をいくつもあげています。

自由の女神像が実は錆てしまっていたということが、思わぬ事件で露呈してドタバタで対処したこと。

ステンレス鋼を発明したハリー・ブレアリー

缶詰にまつわる話。

亜鉛メッキによる防錆。

防食技術者と言う仕事。

といった内容です。

 

錆による事故は数限りなく発生しています。

橋が崩壊し何人もの死者を出したり、原子力発電所で事故を起こしたり、原油パイプラインがいきなりストップして急遽高価な原油輸入交渉をしたり、F-16が墜落したり、旅客機がバラバラになったり。

いずれも錆で金属が腐食したものです。

 

ニューヨークの自由の女神像の腐食が驚くほど進んでいたことが明らかになったのは、思わぬ事件からでした。

1980年5月、あちこちに不法侵入してクライミングをしていた、エド・ドラモンドらが自由の女神像を登っていたのでした。

結局彼らは逮捕されたのですが、そのクライミングの際に女神像にくさびや釘を打ち込んだのではないかと怪しまれました。

実際は吸着カップのみを使い、像には傷はつけていなかったのですが。

しかし、その調査を通じて、女神像を初めて詳しく調べることになったのでした。

すると、ドラモンドが付けたのではない、多くの傷が発見されました。

実は、女神像には多くの腐食による傷があったのです。

結局、修復委員会を設け徹底的な調査と修復工事をすることになってしまいました。

 

 

缶詰には現在ありとあらゆる食品や飲料が詰められていますが、その中身は金属をかなり強く侵すものばかりです。

缶の材料としてはアルミニウムと鉄が使われているのですが、どちらも腐食には弱いものです。

そのため、缶詰の製造の初期には多くの破裂事故が起きました。

ガラス瓶の破裂事故は非常に多く、重大な負傷事故も起きたのですが、缶はその危険性が少ないのかと思われていました。

しかし、実際には金属製の缶も破裂するということが分かってきました。

 

缶詰の初期には、鉄はあまりにも錆びやすかったために、鉄に錫を塗ったり、鉛塗料を塗ったりといった対策が取られました。

しかし、有毒であったり溶け出して食品の味を変えてしまったりと言った問題が多く、技術者を悩ませていました。

現在ではエポキシ樹脂塗料をコーティングするということが一般的ですが、その樹脂の可塑剤として含まれているビスフェノールAの毒性が指摘されています。

 

アメリカでは政府として錆に対処する部署を設けています。

しかし、それでもきちんとした対応を取るまでには至っていないようです。

腐食による重大事故を防いでいくには、かなりの人員と予算が必要なようです。

 

錆と人間 (ビール缶から戦艦まで)

錆と人間 (ビール缶から戦艦まで)