爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「在日米軍 変貌する日米安保体制」梅林宏道著

軍事情勢や軍縮についての研究をされている著者の梅林さんは、本書刊行の15年前の2002年にやはり岩波新書から「在日米軍」という本を出版されました。

しかし、その後の15年で状況は大きく変わり、日本政府のアメリカの軍事行動への協力は際限なく、また北朝鮮も間違いなく核武装国家となりました。

このような変化について、この時点で再び「在日米軍」について論じてみようとしたものです。

 

在日米軍というものがどのようなものか、それはアメリカの軍隊全体を見渡さなければ見落とす事があるかもしれません。

 

在日米軍、そして第7艦隊(これは在日米軍と捉えて良いものか、違うのか、時によって説明を変えているようです)はどちらもアメリカ太平洋軍(USPACOM)に属しています。

米太平洋軍は、アメリカの9つの統合戦闘軍の一つですが、6つの地域統合軍の中で最大の責任地域をもっており、アメリカ西海岸からインド洋まで、南極大陸からベーリング海まで、実に地球表面の50%をカバーしています。

この地域でアメリカの関わる大きな戦闘が起きる事態は今の所考えにくいので、太平洋軍の役割というものはこの地域の防衛ではなく、他の戦闘地域たとえばペルシャ湾アフガニスタンなどへの兵力供給基地としての性格が強くなります。

 

第7艦隊の母港となる横須賀は、実はアメリカ軍の「世界で唯一の海外母港」になっています。

現在の空母ロナルド・レーガンを中心とした「第5空母打撃群」と呼ばれる艦隊は、空母以外はイージス艦11隻からなる空母随伴艦からなっています。

現在は空母を守るための随伴艦はミサイル防衛システムを持つイージス艦でなければ役に立たなくなっています。

この第7艦隊の装備には核兵器が含まれていないはずはないのですが、母港であると称しているにも関わらず、横須賀には定期的に立ち寄るだけだという口実で核兵器持ち込みの事前協議は不要だというのが日米両国の認識とされています。

他の地域にはアメリカ本土から艦隊を派遣できるのに対し、インド洋や中東地域にはあまりにも距離があるために時間がかかりすぎるというのが日本を母港とする理由です。

 

一方、海兵隊は急な事態で派遣されるとしても飛行機が使えるので意味が異なります。

沖縄の海兵隊はアジア地域で緊急事態が発生した時に急派できるからというのがその存在理由となっています。

しかし、湾岸危機の時には実は沖縄駐在の海兵隊は実戦に当たらず重要な役割からは外されました。

海兵隊を運用するに当たり、最近では「海兵遠征隊」(MEU)と呼ばれる組織を編成されているのですが、沖縄の海兵隊はこのような特殊任務にあたるに必要な訓練ができないために、その認定が降りない状態になっています。

沖縄では演習地の規模が小さく、ヘリコプター、トラック、船を組み合わせた本格的な規模の演習をすることはできず、さらに沖縄の海兵隊員のローテーション期間が短いために訓練の熟度が不足し、高度な作戦には不安が残るのだとか。

 

それでは、彼らは何のために居るのか。

事件を起こすために居るわけではないでしょうが。

 

実は、それは「財政的理由」だそうです。

日本政府の「思いやり予算」は世界各国の米軍基地設置国の中でも格段の待遇であり、さらに無料提供されている基地の資産は時価1兆円以上とされています。

 

駐留米軍の起こす問題点についても論じられています。

兵士の起こす凶悪犯罪、基地の環境汚染、そして航空機の騒音被害などです。

厚木基地周辺の低空飛行が有名ですが、米軍が勝手に設定した低空飛行訓練ルートというものが全国に存在しています。

これは敵のレーダーをかいくぐるために地上すれすれを飛行することが必要なためにその訓練をするということですが、民家の上空を超低空で飛行することが日頃から頻発しています。

 

このようなやりたい放題の在日米軍ですが、その存在理由をもとに戻って考えると、日米安保条約での日本防衛というアメリカの責務のための駐留ということのはずです。

しかし、条約的には変えることなしに日米政府の裏取引でその内容はどんどんと変化させていきました。

すでに軍事同盟に転換させる「同盟転換」が合意され履行されています。

それに日本国内からもお墨付きを与えるのが安保法制整備と最後に残された憲法改訂なのでしょう。

徐々に慣らしていけば何でもできるということでした。

 

在日米軍 変貌する日米安保体制 (岩波新書)

在日米軍 変貌する日米安保体制 (岩波新書)

 

 

子供の小さい頃に住んでいたのが、神奈川県藤沢市

湘南地方ということでイメージは良いのかもしれませんが、厚木基地への進入ルートの真下で、特にジェット戦闘機の夜間離着陸訓練の時の騒音はひどいものでした。

本当に、手の届きそうなところを飛んでいました。