爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「最新 ミサイルがよーくわかる本」井上孝司著

現在の軍事兵器で最重要とも言える「ミサイル」について解説されている本です。

著者の井上さんは自衛隊などの軍事関係に勤めたということではなく、航空や鉄道なども含めて移動機関というものが非常にお好きなマニアという方のようです。

しかし、その調査力は高く世界各国の兵器などについて詳しいそうです。

 

つい最近も北朝鮮がミサイルを飛ばす実験を繰り返していましたが、そもそもミサイルというものがどういうものなのか、あまり詳しく知っている人は少ないようです。

しかし、かつての戦争では巨大な大砲で弾を打ち合うという光景が多かったのですが、今では多くの種類のミサイルが飛び交うという方が普通のようです。

そこには軍隊や軍需産業が総力をあげて様々なミサイルを開発してきたという経緯があります。

 

本書ではそのようなミサイルという兵器について、そもそもどういった種類のものがあるのか。

そしてそれの飛ぶ仕組みはどうなっているのか。(それには”飛ぶ仕組み”、”発射する装置”、”誘導する装置と弾頭”があります)

さらに実際に想定される、ミサイルを使った交戦の様子。(これには空対空、艦対空、地対空等々、いろいろな場合があります)

最後には各国のミサイルの名前の付け方まで、ミサイル関係のあらゆる知識が詰め込まれているようです。

 

内容は多岐にわたっていますので、詳しくは触れることができませんが、面白い部分だけを紹介します。

 

弾道ミサイル」について

北朝鮮が何度も発射実験をしていたので有名になりましたが、「弾道ミサイル」とは最初にエンジンの推進力で発射された以降は慣性によって飛んでいくというものです。

ICBMなどの核爆弾を搭載した大型ミサイルもこれに含まれます。

特に大型の場合は宇宙空間まで打ち上げてから落下させる軌道を取ります。

近距離の場合でもこのような高高度まで打ち上げるロフテッド軌道を取らせる場合があり、これは落下速度を非常に速くできることで防衛ミサイルの迎撃を難しくさせる意味があります。

逆に低高度で飛ばすのがディプレスド軌道というもので、これは短い射程で発射する場合に使われ、高度が上がらないためにレーダーによる探知が難しくなる場合があります。

弾道ミサイルに対して、低高度を飛行機のように飛ぶ「巡航ミサイル」というものもあります。

これには飛びながら軌道を変える装置が必要となりますが、迎撃は難しくなります。

 

ミサイル防衛システムとは

ミサイル防衛システム(MD)はかつては「弾道ミサイル防衛」(BMD)が主流でしたが、最近では低空飛行をしてくる巡航ミサイルが発達したために、それも含めたミサイル防衛をしなければならなくなりました。

弾道ミサイルの防衛は発射直後、飛翔の中途、最終突入段階の各段階でそれぞれに最適化された防衛ミサイルを発射することでミサイル飛来をシャットアウトする必要があります。

巡航ミサイルは、弾道ミサイルと比べると速度が遅いので対空ミサイルの性能改善で対処できる可能性があります。

 

空対空、つまり飛行機同士の空中戦でミサイルが使われる場合、誘導装置にもいろいろな種類が使われますが、それに対する妨害装置も各種開発されています。

レーダー誘導のミサイルに対しては、妨害電波を発する装置、赤外線誘導のミサイルに対しては発熱体を周囲にバラまくなどの対策があるのですが、妨害電波を発する装置に対しては、途中からその妨害電波を目指して進ませる、ジャミング誘導モードに切り替えると言う装置もあるそうです。

いたちごっことはこのことかと思われるようなものです。

 

アメリカの有名な「パトリオット」ミサイルは「Patriot」つまり「愛国者」と言う意味の名前と考えられやすいのですが、実際は「Phased Array Tracking Rader Intercept on Target」つまり「フェーズドアレイ型追跡レーダーで目標を狙って迎撃する」という意味だとされています。

しかし、これは本当は最初に愛国者のPatriotという名前を決めてしまい、それに後から適当な英単語を埋めていったようです。

 

ミサイルが現実の戦争に使われだしたのはせいぜいベトナム戦争からだそうです。

しかし、それまでに兵器メーカーが開発して実戦配備した時には「よく当たる」と称していたのが、ベトナムの実戦ではさっぱり当たらずに、「ミサイルではなくミスばかり」と言われてしまったようです。

その当時は電子技術やセンサー技術がまだ未成熟でした。

しかし、1980年代以降は電子技術が非常に進歩が早く、急激に小型化、信頼性向上が果たされ、ミサイルの性能向上も著しく進みました。

制御のコンピュータ技術も発達し、その結果現状となったようです。

 

もうかつての戦争とは完全に交戦の概念が変わってしまったのでしょう。

その鍵を握っているのも電子技術だということがよく分かりました。

 

図解入門 最新 ミサイルがよ~くわかる本

図解入門 最新 ミサイルがよ~くわかる本

 

 本書の「ミサイル迎撃システム」の部分を読んで、思い当たることがありました。

弾道ミサイルの迎撃には、発射直後、中間、最終突入の各段階で行わなければならないそうです。

北朝鮮弾道ミサイル攻撃がアメリカ本土や海外基地を狙った場合、日本で発射直後のミサイルを破壊することが最重要であることが明らかです。

それに必要なのが「イージス・アショア」ではないのか。

その設置候補が秋田と山口というのも、ハワイとグアム基地の防衛のために必要だからというのが明白です。

まあ、アメリカ防衛のための日本ですからそうなるのも当然なのですが、その費用を日本に払わせるというのが理不尽と言えるでしょう。