人口減少すると経済成長もできないといったことを主張する人も居ます。
しかし、国内外の研究機関で経済学研究を重ね、現在は立正大学教授という著者の吉川さんから見れば、決してそのようなことはなく、人口が減っても経済成長は可能であるとしています。
上記のような悲観的な観測をすることを「人口減少ペシミズム」と呼んでいます。
しかし、経済成長を成し遂げるのは人口増加などではなく「イノベーション」です。
人口が減ったとしても一人あたりの所得が増大するならそれは経済成長をしているということになるはずです。
19世紀イギリスの経済学者、ロバート・マルサスの「人口論」は非常に有名なものです。
そこでは、当時の食料供給の能力不足から人口増加に対して危機感を顕にしていました。
それから100年が経った20世紀初頭のイギリスの経済学者、ケインズは有名ですが、彼も「人口論」を書いています。
その当時はイギリスは人口減少に悩まされていました。
そのためか、ケインズも人口減少と投資の減少について考えています。
日本の人口は明治維新以降大きく増加していきました。
しかし、その人口増加率と実質GDPの増加率というものは、決して同調しているものではなく、むしろ完全に乖離していると言えるようです。
増加している時にも関連していなかったものが、減少する時ばかり同調するということは言えません。
経済成長を成すのはあくまでもイノベーションであり、人口の動向は関係しません。
20世紀の先進国では、日本ばかりでなく世界各国で人口が減少し始めています。
マルサスは経済的に豊かになれば人口が増加すると考えましたが、実際は逆でした。
また、マルサスは人間の寿命が伸びていくということもありえないと考えましたが、これも現実は正反対でした。
これも日本ばかりでなく世界各国で寿命は大きく伸びました。
しかし、その中でも日本での伸び方はやはり随一と言えるもののようです。
実は、戦前はもちろん、戦後でも1950年代までは日本の寿命は世界的にも短い方だったのです。
雪の結晶の研究で知られる中谷宇吉郎博士は、1950年にアメリカを旅行しますが、その時の印象として「アメリカでは老人が多く、皆元気で働いている」と書いています。
それにひきかえ、日本では平均寿命でアメリカより遥かに低かったのでした。
それが、高度成長とともに寿命も伸び続け、世界最高水準にたどり着いたのでした。
巻末に近いところに、かつて大学内の理系の教授から問いかけられた問題について書かれています。
「経済はエネルギーが不変でも成長するのかどうか」と。
それはあり得るということです。
経済学者にも「ゼロ成長論」を展開した人が居ます。
19世紀にジョン・スチュワート・ミルが発表した「ゼロ成長論」です。
経済は成長しなければ豊かさをもたらさないが、それでも経済成長は無限には続かないというものです。
ミルはゼロ成長をネガティブには捉えなかったようです。
定常状態が幸福であるということです。
これと同様の考えを持つ人は現代にもいるようですが、それでもやはり経済成長すべきというのがこの本での著者の考えです。
まあ、一応著者の言う通りに書いていましたが、私もミル同様ゼロ成長論です。
人口が減っても、「エネルギーが減っても」、イノベーションがあれば成長は可能ということですが、人材も居ない、金も研究に出さない中でどうやってイノベーションするのでしょうか。
人口が減る前にがくんと下りそうです。