爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「人間の本能 心にひそむ進化の過去」ロバート・ウィンストン著

「本能」と呼ばれるものがあります。

頭で考えることとは違うことをやってしまう場合、それは本能だと言われることがあります。

人類は数百万年も前に他の猿たちから別れてサバンナの草原に降り立ち、二足歩行をしながら進化を続けてきました。

しかし、その生活というものは厳しくギリギリの状態で生存を図るというもので、そこには現在の人類の状況とはまったく異なるものがありました。

そういった時代の記憶が我々の中に残っていて、それが本能として働くのかどうか。

そこには明らかなようなものもあり、不可思議なものもあるようです。

 

我々の先祖はかなり弱い存在でした。

同じような類人猿と比べても、筋力もなく足が速くもなく、強い歯や牙もなく、猛獣に襲われれば簡単にその食糧となってしまう程度のものでした。

しかし、二足歩行を始めたために手の動きが良くなり道具を使えるようになり、さらに脳の働きも急速に活発になりました。

体力の弱い部分をカバーしてさらに他を圧倒する能力を身につけるようになりました。

 

しかし、その初期の頃の周囲への恐怖心というものはいまだに頭の中の一部に残っているようです。

恐怖心を感じるということは、それに対する心身の対応を始めることです。

ホルモンの働きを変化させ火事場の馬鹿力が出るようにコントロールすることもあります。

いつもぎりぎりしか得られなかった食物をどのように食べるかということについても、本能がその指令を出します。

いくら腹が減っていても食べてはいけないものは食べられないように、そういったものは苦く酸っぱく不味いというように感じるようになりました。

また、なるべく高カロリーで少量でも身体のためになるものを美味しいと感じるようにさせました。

そのおかげで、現在の多くの人々が肥満や糖尿病で苦しむことになりました。

ダイエットなどというものは、かつてのサバンナにはありえませんでした。

したがって、太りだしても簡単にダイエットで痩せられるはずもないのです。

 

自分の血を引く子孫を残すというのも生物としての大切な役割であり、そのために今でもセックスは常に人々の頭の多くの部分を占めています。

しかし雌の浮気というのは多くの動物で起きているのが明らかですが、それはその夫である雄に対して大変な損をさせていることになります。

自分の実子でもない子を育てるのに、大変な負担をするわけですから、これは絶対に阻止しなければなりません。

ライオンなどの猛獣では、ハレムを作っていた雄を追い払って乗っ取った新しいボスの雄は、前の雄の子供を殺すという習性があります。

その記憶があるのかどうか、現在の人間でも夫が妻の連れ子を殺してしまうという事件が跡を絶たないようです。

 

その一方で、自分の血縁ではない人間が苦境に立たされると思わずそれを助けようとするのも本能の一つです。

我が子や孫を助けるために命の危険を犯してでも助けに向かうというのは分かりやすいようですが、まったく血縁ではない見ず知らずの人の危機を救うために火の中、水の中に飛び込む人はいつでも現れます。

これは完全には解明されていないようですが、かつてのサバンナでの狩猟の記憶があるのかもしれません。

そこでは、血縁かどうかに関わらず協力しなければ強くすばしこい動物を獲物にすることは出来ませんでした。

ナチスドイツの追求が厳しかった各地で、見ず知らずのユダヤ人を自分の命の危険も省みずに匿った人が数多くいました。

彼らもその本能に従ったのでしょうか。

 

今の社会で考えれば理屈に合わないようにも見える行動が、草原での狩猟の記憶に本当に左右されているのでしょうか。

 

人間の本能

人間の本能