爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「映画館の入場料金はなぜ1800円なのか?」斉藤守彦著

最近はあまり映画館に行って映画を見るということはありませんが、かつては時々は見に行くこともありました。

確かに、「普通の入場料金」はみな1800円でした。

そして、多くの「割引料金」というものもありました。

それがどういう経緯で決まってきたのか、それを映画業界紙記者から映画ジャーナリストとして活動されている斉藤さんがデータと関係者インタビューなどを交え解説しています。

 

映画業界がどのようなものか、それを大まかにでも知っておかなければその先のこともわかりにくいかもしれません。

 

まず、映画を製作する「製作会社」というものがあります。

最近の日本映画は多くの作品が「製作委員会」という複数の出資者からなる組織を作り、映画についての権利もシェアするようになっています。

 

完成した作品は、「配給会社」に渡されます。

配給会社は全国の映画館に作品を貸し出し、料金を徴収します。

また作品に対して営業と宣伝も行います。

 

そして、映画館を経営するのが「興行会社」で、上映して入場料金という興行収入を得ます。

 

興行収入を得た興行会社から、配給会社に「映画料(配給収入)」が支払われます。

配給収入の中から経費と配給手数料を配給会社が取り、さらに「製作委員会」の幹事会社が幹事手数料を徴収した残りが製作委員会に参加した会社などの収入になります。

 

日本の映画業界の場合、この配給と興行がしばしば同一資本であることが多いようです。

本来は卸問屋にあたる配給と、小売店にあたる興行とは自由な商取引が行われるべきですが、実際は同一資本経営であり、「卸問屋が小売店を支配する」関係になっていると言えます。

 

かつては一軒の映画館にスクリーンが一つだけであったのですが、「シネコン」というスクリーンを複数持った映画館が普通になってきました。

しかし、多くのシネコンでは赤字になっています。

シネコンの経営には多くの人手がかかりますが、正社員は支配人他数名、ほとんどはアルバイトなのですが、地方では特にアルバイトの求人は難しくなっています。

また、どこも割引料金を多数打ち出しており、正規料金で入る客の方が珍しいほどです。

その分収入も少なくなっています。

 

現在の入場料金(大人当日)は1800円となっています。

これがどのように決まってきたのか、その歴史を見ると唖然とします。

戦争中に映画館の入場料に対して「入場税」という税金がかけられますが、戦後になってもそれは廃止されるどころか、最高税率150%というとんでもない税率にされました。

それは徐々に軽減されますが、この政策によって映画経営が歪められたのは間違いありません。

 

そのせいかどうか、1960年までは絶好調であった映画は急激に客の減少が始まります。

1961年に映画館の数が前年より減少、さらに観客数も年間10億人に達していたのが、8億6000万人にまで一気に減少します。

この原因は言うまでもなくテレビの普及でした。

しかし、不思議なことに興行収入はそれほど減りませんでした。

これは、観客の減少を料金アップで補ってしまったからです。

 

この後数年は観客数は減り続けるものの、入場料金は毎年値上げ、その結果興行収入は増加と言うことになってしまいます。

1970年までの10年間でなんと入場料金は2.86倍にもなってしまいました。

その後も1980年までは、観客が減るのに入場料金値上げという、状況は続いてしまいます。

 

1981年にその後も猛烈な勢いで続く「割引」が始まります。

毎年の映画観客統計を見ても、「窓口入場料金(大人当日)」というものに対して「平均入場料金」(実質)の差が開いていきます。

1983年の場合、窓口入場料金1500円に対して、実質の平均入場料金は1093円と400円以上の差ができています。

そうして、いよいよ1993年になり、窓口入場料金が1800円に達しました。

その後は値上がりはしていません。

しかし、1996年には年間入場者数1億1957万人と、史上最低にまで減り、日本映画暗黒の時代と呼ばれるようになりました。

 

2000年代には、割引料金のさらなる乱発。

これには、1991年から始まるシネコンの展開が関わってきます。

ワーナーマイカルシネマズが日本進出、それに対抗して他のシネコンも開業し過当競争となっていきます。

レイトショー、レディースデー、モーニングショー、学生割引、シニア割引、身障者割引といったものに加え、「映画の日」サービスデーなど多くの割引が設定されました。

1800円の料金で入場している観客は全体の18%に過ぎないそうです。

 

その後、日本映画の復調により観客数は上向いてきました。

しかし、料金はまだ全国共通の1800円のままで、割引料金利用を知らない人は大損と言う状況は変わりません。

 

現状打開を考えている人もいるようです。

「今度見た映画はつまらなかったが、この次もこの映画館で見たい」という客をつかまえるようにするのが映画館としては良いそうです。

映画の魅力もさることながら、映画館の魅力というものが作れるかどうか、期待できるのでしょうか。

 

映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?

映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?