伊豆半島は、フィリピン海プレートの北端に乗っておりそれが日本列島に衝突してできたということは、地質マニアの間では広く知られていることでしょう。
(さすがに、「誰にでもよく知られている」とは言えませんが)
そのために、数多くの興味深い地形が形成されており、宝箱のような地域とも言えます。
しかし、それだけに急峻な地形で簡単に近づくわけにも行かず、思うような展望もできないという状況でもありました。
それが、最近急激に普及している「ドローン」を用いて少し上空から撮影すると、その地形の特徴などが極めてはっきりとわかりやすく見ることができます。
それを、「岩波科学ライブラリー」が美しく鮮明な写真で本に仕立てたものです。
細かい地質などについての知識がなくても、写真として見るだけでも楽しめます。
伊豆半島の衝突と成長に関連して、富士山や箱根、伊豆大島など周囲の火山の活動もクローズアップされます。
富士山では、江戸時代の宝永噴火での火口はなかなか近づくこともできず、その全体像を把握するのは困難でしたが、このドローンからの映像はそれがはっきりと写されています。
宝永山上空から愛鷹山方面を撮影した写真など見ると、最近の富士山火山活動の特徴である側火山噴火の噴火口が多数見られます。
この次の火口はどこなのでしょうか。
また、平安時代の貞観噴火の時には山麓に溶岩が流れ込み富士五湖や青木ヶ原樹海が形成されました。
その付近に残る溶岩の跡も、ドローンならではの写真で示されています。
富士山の山体崩壊では、現実の崩壊の最大の表れである、大沢崩れの写真が迫力満点で迫ります。
ここは地上からの接近が非常に難しく、近接した写真撮影はこれまでできなかったそうです。
なお、山体崩壊はここからだけ進むのではなく、噴火や地震などでどこが崩れるかも分からないようです。
気をつけたいものです。
伊豆半島の本体では、伊豆半島衝突の過程で数多く噴出した火山の光景が印象的です。
大室山はその特徴的な形状で記憶にも残るものですが、4000年前という最近にスコリア噴火でできたものだそうです
その周辺の海岸には溶岩が流れ込んで固まり、魅力的な光景となっています。
城ヶ崎海岸も有名ですが、海岸の上空からの写真というものはなかなか見ることができない風景でしょう。
なお、少し距離は離れますが八ヶ岳もこの関連する火山の一つです。
八ヶ岳の山体は非常にもろい岩石であり、山体崩壊が激しかったそうです。
山体崩壊に伴い麓に一気に押し出される大量の土砂を、「岩屑なだれ」と呼ぶそうです。
甲府盆地の北西、韮崎付近の台地は、20万年前に起きた大規模な岩屑なだれによってできました。
その総体積は100億立方メートルという途方も無いもので、その先端は甲府盆地の南端にまで達し、50km以上流れたということです。
七里岩という景勝地になっていますが、そのできた来歴は恐ろしいものだったようです。
伊豆半島周辺は、かつて神奈川県に住んでいたときにしばしば訪れたところでした。
当時は、その景色の良さを楽しむだけでしたが、このように地質から見ていけばさらにその面白さも分かるようです。
なお、巻末にはドローンの活用の紹介として熊本地震での被災地の観測も掲載されていました。
あの、地表にも表れた横ずれの断層が、極めて分かりやすい画像となっているのには驚きました。
また、阿蘇でも多くの被害が出ましたが、あの有名な米塚にもひび割れができていたということは初めて知りました。
こういった用途にはドローンは優れていると思います。