爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「先入観はウソをつく」武田邦彦著

武田さんの本はちょっとどうかと思う部分も多いのですが、どんなことでもはっきりと言い切ってしまうという、すっきりしたところに惹かれて時々読んでしまいます。

読んでから、ちょっと困ったなと言うことも多いのですが。

 

この本は「先入観」というものが柔軟な発想を生むことを妨げているという趣旨で、それが専門家やマスコミなどによって作られているということを言いたいようです。

 

それは確かにあり得る問題でしょうが、それが「先入観」だと決めつけられるのもちょっと問題がありそうです。

 

ところで、その例として「タバコはガンの原因ではない」と、「塩分のとりすぎは血圧と関係ない」と、「石油がなくなる」というのは、専門家が故意に流したデマだと書いているのは困ったものです。

 

どうも、専門知識を持つと疑問も増えるのか、少しでもその説と反する現象が見出されると、その説自体がすべて誤りと思ってしまうようで、「喫煙者が減っているのにがん患者は増えている」とか、「女性のがん患者が増えている」といった事実を見ると、ガンとタバコの関係自体も間違いと見えるのでしょうか。

 

石油枯渇説についても、石油会社や専門家が作り出したデマと言い切っています。

しかし、以前に読んだ武田さんの「偽善エネルギー」という本では、まったく違う認識が示されていました。

sohujojo.hatenablog.com新発見される油田がどんどんと減り続け、いずれは石油供給が需要に追いつかなくなるというその認識はまともなものと感じました。

しかし、今回のこの本執筆までの間にまったくその認識が変わるようなことがあったようです。

「石油系のエネルギーはあと1万年分は資源として眠っている計算になる(大方の学者は600万年と計算している」とあります。

「大方の学者」が誰かは知りませんが、どこかその辺からこの変な計算を吹き込まれたのでしょう。

 

塩分摂取と血圧の関係でも、20年ほど前の東大の医学部の研究で「5人に4人は食塩を減らしても血圧が変わらない食塩非感受性の人ということがわかった」としています。

そのような話は聞いたことがありませんでしたが、この辺の話はネット情報では混乱してしまうばかりでしょう。

 

ただし、他に挙げられている例にはそこまで変なのはないようで、「先入観」にとらわれずに柔軟な思考をすべきというのは間違いないことです。

特に政治や経済などはその危険性が大きいようで、この本にも「”国がある限り年金制度は崩壊しない”などということはない」とありますが、つい先日の報道では政府が「年金では老齢期の生活費が足りない」などと言い出していました。

こういった政府の言い分などは決して信じてはいけないようです。

 

まあ、全体としてはうなずけるところも多いのですが、最初に挙げた3点はちょっと、というところであまりお薦めできません。

どうやら、武田さんご自身が「専門家は嘘をつく」という先入観に固まっているようです。