爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「アンチヘイト・ダイアローグ」中沢けい著

小説家として数々の作品を発表されてきた中沢さんですが、在日韓国人にも多くの知り合いがいて、さらに韓国ともつながりが出ていたところに、東京の新大久保近辺で起きていたヘイトスピーチ・デモというものに出会います。

 

これは大変なことであると感じて、そのような動きに反対する活動を始めるのですが、彼らの行動の裏には現政権のトップに関わる問題もあるということに気づき、日本の現状の多くが関わっていることが分かります。

 

そこで、2015年のはじめに様々な立場の方々とヘイトスピーチとその裏にある問題点について対談をするという活動を行いました。

この本はその対談を収めたものです。

対談のお相手は、小説家の中島京子さん、平野啓一郎さん、星野智幸さん、政治学者の中野晃一さん、エコノミストの向山英彦さん、社会学者の明戸隆浩さん、弁護士の上瀧浩子さん、社会運動家泥憲和さんの8人です。

 

連続した対談というわけではないようで、それぞれが別に行われていますので、内容があちこちに動き回り、主題を見失わせてしまうような部分もありましたが、ポイントだけを編集してしまうと大事な部分も切り取られてしまうかもしれませんので、少々我慢して付き合う覚悟が必要かもしれません。

 

ヘイトスピーチはどこの国でもある問題ですが、その状況は各地で大きな違いがあります。

日本においてはもっぱら在日韓国朝鮮人に対してのものが主であり、東京新大久保などでのデモが象徴的なものですが、それ以外にも朝鮮学校などを標的とした暴力事件も多発しました。

これには現政権の幹部クラスの政治姿勢も大きく関わっており、ヘイトスピーチで聞かれる言葉とそっくりの発言をする主要閣僚も何人も居ます。

 

その他、ヘイトスピーチに流れる人々の心理分析や、時代の背景なども話題とされるなど、様々な話題も提供されるため、その時々の興味に従って選んで読んでいくことも必要かもしれません。

 

平野さんとの文学史についての対話では、「70-80年代の随筆はスケッチはできている」「しかし90年代になると随筆という注文自体がなくなってしまった」という発言が興味深いものでした。

確かに、私の若い頃の経験とも重なり、そういった時代の動きというものがあったのだという事が再認識されました。

 

星野さんとの対談のなかで、中沢さんが「今はアベノミクスで二度目のバブル、幻想のバブルを国家予算を注ぎ込んでやっている」と発言しています。

それが分かっている人と、分からずに安倍を評価する人との間の断崖とも言える差は大きいと感じます。

 

中野さんとの対談では、ちょうどこの対談の頃に起きたISによる日本人人質事件が取り上げられています。

人質が殺害されたとき、首相はインタビューに答えて「その罪を償わせる」と発言しました。

しかし、実際にはどのような手段を用いて「償わせる」のか。

そのような手段を日本は持ち合わせていません。

これは安倍が自らの支持者を意識して彼らに対する役者の決め台詞のような意味で使っただけのものです。

安倍は北朝鮮から拉致被害者を取り戻したということを成功体験として捉え、威勢のよいことを言い強硬路線を取ることが人気を上げる秘訣だと思い込んでいるようです。

ただ、彼の場合は日本の自称「保守」の人々と同様、対米追従をしながらナショナリズムを標榜するという典型的な構図に収まっています。

こう言い切ってしまう中沢さん、非常にすっきりとした意見をお持ちのようです。

 

その後、一応の対策法が成立しましたが、現状はどうなっているのでしょう。

あまりニュースになることもありませんが、韓国情勢が極めて悪化している中、注視する必要があるかもしれません。

 

アンチヘイト・ダイアローグ

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