「書いてみよう読んでみよう」などと言われると、まるでハウツーものの本のようですが、これは「まったく実用とは縁のない」内容です。
なにしろ、人類最古の文字と言われるメソポタミア文明が生み出した楔形文字の使い方というものです。
楔形文字は、メソポタミア文明を最初に始めたシュメール人が作り出したとされています。
しかし、いきなり文字として作ったわけではなく、それに先行して粘土をちぎって何らかの意味を持たせた「トークン」というものが紀元前4000年頃から使われており、それが紀元前3300年ほどになって楔形文字として発展したものと見られています。
楔形文字が「くさび」のような形になったのは、その筆記用具の性質からできたものでした。
メソポタミアでは木材や竹、毛皮といった他の文明で筆記具として使われたような素材は乏しかったのですが、粘土だけは豊富に存在しました。
そのために、粘土を平たく伸ばしてノート代わりにしました。
そこに筋をつけるために、葦の茎を切って使ったそうです。
葦の茎のペンを粘土板に押し付けると一見くさびのような形になります。
その方向と数を組み合わせて文字としました。
その最初は絵文字のようなものだったのですが、徐々に音を表す「表音文字」となっていきました。
そのため、現在の日本語とも同様の音を表す場合は楔形文字を用いて日本語も書き表すことができることになります。
ただし、同じような楔形に見えても、中には漢字と同様に「言葉」を表す「表語文字」も並立しています。
それは「神」とか「王」とかいった重要な事物のものが多いのですが、これはあたかも日本語の漢字かな交じり文と同じ性質のものであり、日本人にとっては理解しやすい?ものとなっているそうです。
楔形文字はシュメール人がシュメール語を書き表したのが最初ですが、その後メソポタミアを制覇したアッカド人が自分たちの言葉を表すのに流用しました。
アッカド語はエジプトやシリアでも用いられたのですが、その後アラム語に取って代わられました。
しかし、その読み方の記憶は残っているために、楔形文字で書かれたアッカド語というものは解読されました。
そのために、楔形文字もアッカド語を書き表したものから読み方まで分かっています。
母音はアイウエの4種類、(オは無い)ですが、子音が日本語よりも種類が多いために全部で57種の文字があります。
これで、日本語を楔形文字で書いてみるということも可能になります。ただし、「ン」と「ッ」(つまる音)は少し工夫が要るようです。
また、楔形文字の読み方が分かると、数多くの発掘された遺物に書かれた碑文も読めるそうです。
まあ、意味は分かりませんが、なんと読むかが分かるというのもすごいことでしょう。
以上のように、実用性はまったくない話ですが、古代文明が身近に感じられるようなものでした。
しかし、こういった本を読む読者像というのがよく分かりません。どんな人が読むのでしょうか。(物好き?)
それとともにこの本を買う人というのが本当に居るのかどうか不思議です。
と、出版社の経営状態まで心配していたら、本の最後にはシリーズの宣伝が載っていました。「ヒエログリフ」と「マヤ文字」だそうです。
ますます心配になってしまいます。
楔形文字を書いてみよう 読んでみよう:古代メソポタミアへの招待
- 作者: 池田潤
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