爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「楽器の科学」橋本尚著

著者は音楽家ではなく電気工学が専門の科学者ですが、音楽愛好家として長く聞いてこられたようです。

 

オーケストラでは、弦楽器、管楽器、打楽器といった多くの種類の楽器が同時に音を発し、それが調和して一つの音楽として聴衆の心を掴みます。

しかし、それぞれの楽器を見てみると、その音を発する仕組みや演奏の方法は一つ一つ独自のものであり、お互いに全く異なることがあるようです。

 

「バイオリンの音は弦が鳴っているのか、胴が鳴っているのか」

素朴な疑問ですが、意外に奥深いものを秘めています。

 

バイオリンは弓で弦をこすって音を出しているのだから、弦が鳴っているということには間違いないのですが、しかし弦だけではあのような音にはなりません。

バイオリンの各部の振動を見てみると、胴板が10ミクロン程度の振幅で振るえています。

つまり、バイオリンの音は非常にかぼそい弦の振動を、振動面積の大きい胴板の振動に変えることによってあのような妙なる音になっているわけです。

 

 

弦楽器はいろいろな種類があって、弾き方も大きさも様々ですが、弦を振動させるということでは一緒でした。

しかし、管楽器という息を吹き込んで音を出す楽器では、その方式にも大きな違いがあります。

一つのグループは、クラリネットオーボエなどの「リードをふるわせる」ものです。

クラリネットはリードが1枚、オーボエは2枚といった違いはありますが、どちらも地中海沿岸で育つアシを薄い小片にして取り付け、それをくわえて息を吹き込むことで振動させます。

もう一つはフルートで、吹口にエッジがありそこに向けて息を吹き込むことで気流が振動し音になります。この規則正し気流をカルマン渦(うず)と呼びます。

さらに、トランペット、トロンボーンなどはマウスピースという吹口に唇を押し当てて、息を吐き出す時に唇を振動させ、その振動を管全体で共鳴させて大きくして音にするものもあります。

 

楽器から出る音を目に見えるような波の形にして見るシンクロスコープという機械があります。

これでいろいろな楽器の音を見ると、それぞれかなり異なる波形であることがわかります。

音叉の音は非常にきれいなサインカーブを示しますが、その音色は単調に聞こえます。

バイオリンやクラリネットなどの楽器の音は複雑で不純とも言える成分の混ざった波形ですが、その音はリッチであると言われます。

ただし、そのような複雑な波形であっても、細かく中身を見ていくといずれも一定の周波数のサインカーブが組み合わさってできているものです。

これはフランスの数学者フーリエが見つけ出した「フーリエ解析」であり、数学と音楽の出会いというべきものです。

 

現在の楽器はそれぞれ十分に進化し、最適な構造となっているように感じますが、実際は楽器によっては非常に操作しづらく、細かく速い音の動きが求められても演奏できない場合もあります。

ベートーベンの田園の第4楽章、コントラバスに8分音符の速いパッセージを要求していますが、プロの演奏家でもこれを間違いなく弾くのは大変なようです。

 

私も以前は素人の横好きでいろいろな楽器を演奏したことがありました。

物になったのは一つもありませんが、下手でも演奏するだけで楽しめると言う楽器とは人生を豊かにするものなのでしょう。