著者の高橋さんは、東京大学数学科出身の異色のキャリア官僚として大蔵省に入省し、長く勤めましたが退職しました。
そのため、「官僚」というものの裏表まで熟知しており、それがどのように日本の政治を動かしているか、また欠点や汚点までよく分かっています。
この本が書かれたのは民主党政権の終わり近い2011年3月、「政治主導」をうたって官僚支配を打ち破ろうとした民主党政権も無残に敗れ去り、再び官僚跋扈の政体に戻ろうとしていた頃でした。
民主主義政治は、愚かな民衆が選んだ愚かな政治家が政治に当たる「衆愚政治」であるとはよく言われることです。
しかし、高橋さんの見るところ、現在の日本の政治は「官愚政治」つまりあまりにも愚かな官僚に任せきりにしてしまった政治と言えるようです。
官僚と言っても、この本で言うのは国家公務員試験の1種に合格したいわゆる「キャリア」と呼ばれる者たちです。
その中でも、特に優秀な(と自分たちでは確信している)大蔵省(現在は財務省)のキャリア組を問題としています。
公務員試験の内情も著者は熟知しています。
なにしろ、それに合格して大蔵省に入っただけでなく、在任中には公務員試験の問題作成にも当たったそうです。
日本のキャリア官僚が強力な権力をもてあそんでいるのも、1種公務員試験という難関の試験を高得点でパスしたからだと誰もが思っています。
しかし、著者によればその試験というものは「能力ある人を選び出す」ものではなく、「決められた勉強をする人が通過する」ものだということです。
公務員試験の対策用に、必読教科書というものがあります。
しかもそれが10冊以上もあるようです。
これを買ってしっかりと勉強したものは高得点が取れるように作られているのが公務員採用試験の問題だということです。
つまり、キャリア官僚に求められている資質というものが「決められた勉強をしっかりとすることができること」であり、想像力や独創力などは不要のものということです。
これで見える官僚に求められる資質というものは「前例踏襲」だけです。
どのような前例があるかをしっかりと「勉強」し、それに沿って判断するという能力を持っているものが「優れた官僚」ということです。
このような官僚がどういう仕事ができるか、すぐに分かりそうなものです。
このような「官」の形は実は明治期に作られてそのままです。敗戦の時にもGHQをうまく操り官僚制はそのまま存続させてしまいました。
本当は無能な官僚が政治の実態を操る権力を握り、自分たちに都合の良いように政治を動かしているのが日本の政治の本質だそうです。
民主党がやろうとしてできなかった「政治主導」を実現させるためには、「政治任用ポスト」とされている官房長官、官房副長官、官房副長官補を、ちゃんと政権が選んだ人間で運営することだそうです。
しかし、現状では官房副長官以下は官僚のトップが占めています。
民主党が「政治主導」をうたって政権についた時に著者はこのポストに民主党が誰を充てるか注視したのですが、前政権から全員を留任させたそうです。
これで、民主党政権の政治主導というものが、本気でないことがわかったとか。
アメリカでは官僚のトップクラスはすべて政治任用ポストであり、政権が代われば総入れ替えとなっています。
だからこそ、政権交代の効果も上がるのであり、それができなかった日本には官僚の暴走を防ぐことはできないようです。
この本の直後に自民党が返り咲き安倍政権が復活しました。
これが官僚をどう使っているか、というか、どう政権が使われているか、官僚の忖度で適当におだてられてすべてが官僚のやりたい放題ということでしょうか。