爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?」デイヴィッド・エプスタイン著

国際大会で日本選手がなかなか勝てない競技が間違いなくあります。

そこで勝っているのは黒人ばかり、やっぱり遺伝があるんじゃないのと言うのがほぼ日本人の漠然とした思いだと思いますが、実はこのように「スポーツの優劣は人種による」なんていうことは、特にアメリカでは非常に言いづらいことのようです。

そのため、本書もその内容はまったく科学的な論拠を精密に組み立てて述べられているのですが、原著出版時にはやはり問題と見られていたようです。

 

この人種と能力という問題については、本書の中にも記述されており、第11章の中に、

「この仮説(鎌状赤血球形質保有者が筋繊維変異する)について意見を求めた研究者は、このテーマをこれ以上追求しようとは思わないと答えた。厄介な人種問題を避けて通れないからだ」と現状を述べています。

「そのうちの一人は特定の生理学的性質に関する民族的な差異を示すデータを持っているが、物議をかもすおそれがあるから発表する気はないと言っていた」というのが実際のところなのでしょう。

 

しかし、このような雰囲気の支配する中で、この著者のエプスタイン氏は敢然と主張すべきことは主張します。

 

人類の多様性を調べていくと、そのほとんどはアフリカの人びとの中にあり、それ以外の世界の各人種は非常に似通った遺伝子を持っていることが分かります。

これは、人類のアフリカ起源と、出アフリカ説が成立していることを示しており、約9万年前には同じところに住んでいた人々の中からほんの数百人が出発しその後全世界に広がっていったことを言っています。

そんな中で、アフリカに残った人々の中には多くの多様性が存在し、その中には非常に運動能力に優れた人々も居るようです。

それが、西アフリカの瞬発力、東アフリカの持久性です。

 

西アフリカの瞬発力に優れた人々は、かつての奴隷としてアメリカ大陸に連れてこられ、その中でも特に優れた一群がジャマイカに残されました。

また、東アフリカでもケニアのカレンジン族の人々は長距離走の能力が非常に優れています。

ここで注目すべきは、彼らが持久力が優れているというばかりではないということです。

それももちろんですが、他にも「筋肉が非常に細い」ということがあります。それが同じ運動をした際のエネルギー効率の優秀さにつながるので、長距離走に向くのだとか。

 

 

ただし、忘れてはならないのは、アフリカの人々に多様性が大きいということは、瞬発力が並外れて低い人たちや持久性がまったくない人たちも居るかもしれないということかもしれません。

また、このような運動能力と同時に、致死的な病気や障害に通じる遺伝子を持つ人も居るということもあります。

優れた運動能力を持ちながら突然死してしまった人々も多数います。

 

今後の問題としては、遺伝子操作で優れた運動能力を得ようという人々が出てこないとは限らないということがあります。

そのような「遺伝ドーピング」がはびこるのも不正の一種でしょう。しかもそれはこれまでのドーピング以上に効果があるものかもしれません。

 

スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?: アスリートの科学

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