高齢ドライバーの事故のニュースが毎日のようにテレビ新聞で報道され、年寄りは運転するなと言わんばかりの風潮のようにも感じますが、実際のところの高齢者の運転はどの程度危険なのか、本当に事故を起こしやすいのか、またそうならどうすればよいのかということをきちんと知ることは難しいことでした。
そこのところを、警察庁などで交通安全についての研究に当たり、その後大学に移ってさらに研究を続けられている著者の松浦さんが、様々な方向から多くの実例を交えて解説されています。
高齢者の交通事故が社会問題化しているようにも感じます。
しかし、考えておくべきは、現在の高齢者はほとんどが免許を取るようになった最初の世代とも言えるということです。
その前の世代ではあまり運転免許取得者の比率は高くなかったのが、急激に増加しました。
さらに、高齢者の人口自体がこちらも急激に増加してきました。
そのために、「高齢の運転者」というものの数が近年になり一気に増えてしまいました。
それが、高齢者交通事故の増加と結びついています。
さらに、高齢になり身体が弱ってくると公共交通機関利用が難しくなり、徒歩や自転車も厳しく、車を利用しなければ動きが取れないという事情も強く影響します。
しかし、やはり老化とともに運転技能が低下し事故を起こしやすくなるというのも間違いのない事実です。
特に、75歳以上でその傾向が強まります。
また、悪いことに長年の運転経験から運転技術について自信過剰となっている高齢者も多くいます。
自身の老化から来る技能低下を直視できないということが、さらに事故の危険性を増やすことになります。
高齢ドライバーが特に事故を起こしやすい状況というものがあります。
それは、交差点での出会い頭事故です。
惰性となっている一時停止の不履行、安全確認の軽視といった、長年の悪い習慣が残っているのに加え、歩行者を見落としやすいということもあります。
また注意力も散漫になっているために、標識を見落としやすくなっている人も多いようです。
また、視覚情報処理能力が低下してくるために、操作の遅れが発生し、なんでもないところでの単独事故というものも増加します。
操作の誤りも増え、さらにそのミスで焦って大きなミスに至る、アクセルとブレーキの踏み間違いというのも高齢者に特に多い事故でしょう。
突然の病気発症にともなう事故というものもどうしても高齢者に多くなり、軽視できない程度に発生するようです。
現在では高齢者の免許更新時の講習は特に念入りに行うようになっていますが、これは何かを覚えてもらうというよりは、自分自身で運転適性が低下しているということに気づいてもらうという意味の方が強いようです。
それで、低下の著しい人には免許更新をあきらめてもらうという意味もあります。
免許返納という問題も出てきますが、いずれは誰もが運転できなくなる中で意識的に辞めるというのは難しいことです。
免許を返納してしまうとその後の生活もかなり変化してくるようです。
特に、習い事や趣味、個人で行うスポーツといったものは止めてします人が多いということです。
高齢化社会での自動車運転と言う、車社会である現代日本での重大問題です。
よく考えていくべき問題でしょう。
本書の内容とは関係ないことですが、著者の松浦さんの経歴を巻末で見ていたら、なんと私と出身大学と卒業年度が同じと分かりました。
もちろん、マンモス大学で学部も違うので、まあ学内ですれ違ったことは一度や二度はあるかもと言った程度ですが、卒業後40年の時を経て、こうやって本の上で再会できたというのは不思議な縁と感じました。