「錯視」といえば、同じ長さの平行した直線に内向き・外向きの矢印を付けるとあたかも長さに差があるように見えるといったものです。
そのような「錯視」にも様々な種類があり、それを用いて大きな作品を作る「錯視デザイン」というものを提唱しているのが、著者の立命館大学教授の北岡さんです。
錯視をテーマにした作図をしたという人は数多く居ますが、それをデザインというところまで高めた人は世界にも居ないだろうということです。
錯視といってもその表わし方には次のような種類があります。
静止画が動いて見えるような錯視
オオウチ錯視、四色錯視、中心ドリフト錯視等
同じ明るさなのに違って見える錯視
T接合部の明るさの錯視、輝度勾配依存の錯視、ヘルマン格子錯視等
水平のはずが傾いて見える錯視
世の中には同じような概念で、「だまし絵」(トリックアート)というものもあります。
フィッシャーや福田繁雄の作品が有名ですが、著者によれば錯視とトリックアートでは、「アートとしては同種だが、サイエンスとしては別種」であるとしています。
作品に使われる現象あるいはトリックが異なるからです。
ただし、だまし絵と錯視デザインには多くの共通点もあり、それは作品の目的が視覚のメカニズム自体を表現することにあるということです。
さらに、見た人を驚かせて楽しませるという効果があることも共通です。
しかし、著者の考えるところでは、「錯視は生存の役に立たない」が、「だまし絵に使われている視覚現象は役に立つ知覚である」ところが異なるそうです。
「何の役にも立たない」ということを堂々とやっている。実にうらやましいことです。